血塗れのうさぎ(エラム) 前編

突如響きわたる金属音ーーここは静かな森の中のハズだった。


「何事!」


エラムはすぐに顔を隠し、警戒体勢に入る。幸いアルスラーン達の方向ではない。
汲んだばかりの水の入った桶はそのままに、エラムは忍ぶようにその場へ向かった。


鳥の声も人の声もない。気配もない。だが、既に聞き慣れた金属音だけが数を増していく。音のする方へ。エラムは金属音以外に聞こえる自身が風を切る音を耳につかせながら走った。


途中で怯えたように走るうさぎがいた。血を流し、危なげながらも走っていった。


やっとの思いでたどり着く。「な、なんだこれは……」目を見張った。声を漏らした。当たり前であった。


なぜならそこは、血の海だったから。とても良くできた人形に似た、仄かに温かいもの。まさしくヒトである。

それは一体だけにはとどまらなかった。もう三体。計四体のヒトが左胸から赤い涙を滝のように流していた。


人の気配はない。顔をしかめたくなる異臭が充満しているだけである。


そこで、エラムは思い出した。ーーうさぎッ!


また彼は走る。来た道を辿るように。


あのうさぎはきっとあいつらをやったヤツにやられた。エラムはそう考えた。


考えを巡らせた後、彼は見てしまう。


怪我をしたうさぎが、哀れにも倒れてしまう瞬間を。

そしてうさぎが髪の長い少女に変わっていく様を。

さらにその小さな手に、血塗られた鋭利なナイフが弱々しく握られていることを。


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