バカなりの考え(殺戮の天使 アイザック×レイチェル)

オレは、確かに言った。
このガキに向かって言った。

「オレがお前を殺してやるよーー神様に誓ってな!」

”神様”
それは、この小せえガキにとっての頼れる相手らしい。

なぜお前は死にたいのにも関わらず自分で自分を殺さないのか、そう問うたことがある。
しかしアイツはそれはいけないことだと言った。”神様”がそう言ったから。

アイツは所詮神様のいうことが一番なんだ。
オレよりも神様。その青い目は神様しか見えてねえってのかよ。

そして今。
レイこと、レイチェルはオレの横を変わらない無表情でいる。
オレはこの小せえガキをレイと呼び、レイはオレをザックと呼ぶ。2つとも、両者の愛称だ。

エレベーターは音もなく上を目指して上がっている。
しかし、外も見えないこの狭い空間では本当に動いているのかでさえも不安になってくるのが現状だ。
オレの感覚としては、狭い密室に閉じ込められているような気分。オイ、これ本当に動いてんだろうな。

「……ねえ、ザック」
「……ンア?」

レイは首だけをこちらに向けていた。
上目遣いでオレを見ているそのサファイアとかいう宝石のような目は予想通り死んでいた。
しかしそれでも透き通るような青色は綺麗。あの変な白衣のおっさんがシューチャクするのもわかる気がする。

小鳥のように小さな口はオレの方を向きながらゆっくりと動いた。

「……私、あなたの役に立てた?」
「”あなた”じゃねぇっつってんだろ」

オレのことを”あなた”って呼ぶな。
お前は”ザック”って呼べ。

「……ごめん。ザック、私、ザックの役に立てた?」
「……つかそれさっきも聞いてなかったか?」

小さくレイは頷いた。
一分くらい前に聞かれたものを、オレは一分くらい前と同じように返す。

「あぁ、ちったぁな」

少し、あくまで少し。
本当はすごく役に立っていた。

レイがいなければ、この階はきっと突破できなかっただろう。
だってオレはバカだから。
頭の良いレイがいないと、オレは今ここに立っていなかっただろう。
確信に似たそれは、なんとも温かい。

本当は、伝えたい。
この心臓部分の温かさの正体を。

”ありがとう”と。

お前がいなかったら、オレは今ここに立ってねぇよ。
お前がオレを受け入れてくれなきゃ、オレはきっと生きていけない。

すげぇ、伝えてぇ。

「ま、次の階ではもうちょっと役に立ってくりゃぁいいんだケドよ」

あくまで少し。
本当のことなんて誰が言ってやるか。

なんつーんだっけ、こういうの。”天邪鬼”?
つかオレはそれでも構わねぇんだよ。

「……うん。私、もっとザックの役に立てるように頑張る」

ああ、頑張れ。
レイは、オレのために頑張れ。

「ザックが満足してくれれば、私を殺してくれるんでしょ?」

ーー神様に誓って。

「あぁ、当然だろ。もちろん、ここを出てからだけどな」

オレは嘘はつかねえ。つーより、つき方を知らねぇ。
だから、全部を真実にしちまえばいい。

「オレはここを脱出できればいい。そしたらレイ、お前をを殺してやるよ」
「うん。約束」

オレは約束は破らねぇ。

「ま、お前はオレを満足できるくれぇに役立ってくれればな!」

オレは笑う。ああおもしれぇ。

エレベーターは小さく音を立てて揺れた。
ああ、止まったのか。

レイはオレの一歩前に足を出した。
重たそうな扉の奥から光が漏れでている。次はどんな奴が来るんだろうな。

「おい、レイ」
「なにーーわっ」

オレはレイの肩を掴んで引っ張ってやった。「おい、オレの前に出るんじゃねえ」

「……ごめんなさい?」
「なんで疑問形なんだよ」

お前はオレの隣にいろ。
じゃねぇとオレが落ち着かねぇ。
他の誰かに、レイを殺されてたまるかってんだ。

少し力を入れれば砕けちまうようなその小せぇ肩で、どうやって逃げるんだよ。
敵がさっきのネジがぶっ飛んだやつみたいなのかしれねぇだろ、この高い天井に頭をぶつけそうな大男かもしれねえだろ、ーーオレみたいに武器を持ったやつかもしれねぇだろ。

オレはオレの役に立て。それだけでいい。
したら、オレはお前を脱出してから殺してやる。

ーーま、”オレが満足すれば”の話だけどな。

レイはオレの役に立ってろ。
そんでもっといろんな表情を見せてみろよ。
そんな死んだ目じゃなくて、もっと生き生きとした目を見せてみろよ。

そのきらきらとした目で、笑ってみろよ。
オレがその笑顔を見ててやるから。

オレがその笑顔を守ってやるから。
お前の隣で守っててやるから。

オレは貪欲だ。
オレが満足する日なんて、いつ来るかわかんねぇよ?

でも、”オレが満足したら”お前を殺してやるよ。

ーー神様に誓ってな!!


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