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レアが旅立ちを決意してからはトントン拍子だった。

出発は明日。向かうはホディール城塞。

シロンは、ナルサスとアルスラーンに簡単な近道を伝え、ダリューンは馬の様子を見に行き、ファランギースとギーヴとエラムは弓矢の仕込み。レアはそれを物珍しそうに眺めていた。

夕餉は既に腹の中。
エラムとシロンは競うように腕を振るっていた。
おかげで大変満足なものになったという。

「……ほぁ〜、これが矢ですか……」
「そうじゃ。少しでも手を抜けば飛びも、当たりもせん」

ファランギースが調節を終えた矢を一本手にしながら、レアは様々な角度からそれを見ていた。
微笑ましそうにレアを見る彼女の表情は、ギーヴの目には女神にとしか映っていない。

ファ、ファランギース殿があんなにも楽しそうに……と口をあんぐりと開けたまま女子二人を見るギーヴを横目に、エラムは黙々と作業を進める。

その時、出入口の暖簾が揺れた。シロンだ。

彼女の後ろにはアルスラーン、ナルサス、そして馬の元から帰ってきたダリューンが顔を覗かせる。
シロンはレアに問う。「今日のキイチゴ、どこに置いた?」

彼女が答えようとするが、シロンがそれを制す。
わかってるならいいの。それをすぐに織物の部屋に持ってきてくれる?

「皆さんも、よろしければご覧になってくださいませ」

シロンが結った白い髪を揺らしながら部屋を出る。
なにをするのだろう、とファランギースとギーヴはシロンへついていく。
エラムはレアの後ろをついていった。キイチゴを運ぶのを手伝うためだ。

しかし、レアは断る。
いえ、それでもお手伝いいたします! と彼も頑固な面を見せるが、その威勢も虚しくナルサスの声がかかりシロンの方へついていくこととなった。

たかがキイチゴのかごを持ってくるだけのこと。
案の定時間はかかることなく、すぐに二つのかごを持ったレアが顔を出した。

「レア、ありがとう」

受け取った二カゴ分のキイチゴを、机の上の長方形の鍋のなかに豪快にもぶち込んだ。
長方形で、手の半分くらいの高さのその鍋には四分の三ほど埋まった。

少し時間をかけて火をつけ、少し待つ。
すると、キイチゴと同じ色の液が出てきた。
また少し待つと、その液はどんどんかさを増していき気づけば鍋いっぱいになった。

火を消し、網目の細かい布を取り出し残ったキイチゴの残骸を回収する。

「……母上、なにか染めるの?」
「あら、よくわかったじゃない」

その後が本当に速かった。
魔術のように取り出した大きめの真っ白なマント。
その突然さに周りが目を剥いているが、これ、私が昔使っていたものなのよなんてシロンは気にする様子もなくそれを煮汁につける。

あっという間に染め上がったマントを干し、「じゃあ一度お茶にしましょうか」なんて。
彼女の力は空間を自由自在に操るものなのでは、とダリューンは割と本気で思った。

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