15 汗が止まらなかった。 自分の周りに熱が壁を作るようにこもり、涼しい空気が入ってこない。 「……エラム様、汗だくでございますよ?」 「……わかって、います」 正直、情けなかった。 目の前少女は汗一滴流さず、息一つ乱れず、高いところから声をかけたのに。 自分は虫の息で彼女からの言葉に反応するだけで精一杯だった。 「……にしても高い……」 「ですよね。私が十人縦にくっついても届きませんね」 小さなくぼみによって成り立つ洞窟から顔を出して下を向くと。 顔に刺さる冷たい風と、自身の目に映る一面の緑。 ずいぶん遠くまで見渡せる。山麓の村まで見える。広い畑が目印だ。 「さあエラム様、たくさん採って散歩でもいたしますか」 「……はい」 しかし、キイチゴを採るためには手を伸ばさなくてはいけない。 そして、キイチゴに触れるためにはにはくぼみから身を乗り出さないといけない。 レアはというと。 臆すること無く身を乗り出し、晴れた夜空のようなキイチゴを一つ一つ摘んでいた。 傷んでないか確認しながら摘んでいくレアは言った。 「ここ、誰も採りにこないので実がたくさんあるんです」 ーー誰が来るか!! エラムは心の底で叫んだ。この場所へは上からも下からも来たいとは思わない。 そうこうしているうちに、レアのカゴの中にはもうすでに半分以上キイチゴが埋まっていた。 自分が信じる君主、ナルサスの命もある。そして目の前で平気な顔をしてキイチゴを摘んでいく年下の少女に対抗心を燃やしながらエラムは心を決めて、腕を伸ばした。 しかし、実際彼女はエラムと同い年ということを、彼は知るよしもない。 彼女の隣に座りながら葉に触れる。 下を向くな、下を向くな、下を向くな……。 「ーーあっ、虫」 「わあっ!?」 滅多に驚きを声に出さない彼が声をあげて驚いた。 葉から出てきたのは真っ白な蝶。 「……蝶」 自分が情けなくなってエラムはため息を一つ。 変に気負いすぎるとダメだ、と大きく深呼吸をしてからまた実を採ることに専念した。 |