14 冷たく固まっていく背筋を感じながら彼女に問う。 「だ、大丈夫なのですか……?」 そんなエラムとは真逆に、レアはしれっと答える。大丈夫です。 「あの木の裏にくぼみがあって、その中に入れるので。あそこならキイチゴに手も届きますし、安定もいたします」 違う、そうじゃない。 エラムはあそこにたどり着くまでを聞いているのに、と眉をひそめた。 コイツ……本当に人の話を聞いているのか? では行きますか。そう言いながら崖の出っ張っているところに手をかける。 「私と同じところに手と足をお掛けになってください」 ちょっと食料調達をしてくるか、と同じような感覚で彼女は上り始めた。 エラムはもう諦めきったようで大きくため息を一つ。そして彼女がどこに手をかけているかを確認しようと上を見上げるとーー。 ま た 見 え た 。 白いすらっと伸びた陶器。 一瞬で顔に熱を帯びていくのを感じ、咄嗟に元の木の上に戻った。 がさり。彼が乗った木が鳴いた。 それに気づいたレアは「どうしたのですか?」とエラムに声をかけるも、彼は頭を必死に横に振っていた。 「申し訳ございません! あ、あの……レア様がたどり着いてから手をかけるところを御教授いただいてもよろしいでしょうか……?」 彼女は、「は、はあ……」と不思議そうに返事してからひょいひょいと絶壁を登っていった。 それまでエラムはといえば。必死に脳裏にまた濃く焼き付く絵画を破りながら心を静める。物理的な意味でエラムがそれをやっていたら、ナルサスが叫びながら泡を吹いて気絶するだろう。 あっというまに彼女は登り終わったらしい。声が降ってきた。 「エラム様ー! お登りくださいー!」 顔をあげてみると、そこにはくぼみから顔だけを出すレアの姿。 背中に乗りきらなかった白の髪が、太陽に照らされて本当に雲のようだった。 ぼんやりそれを眺めてから、エラムは彼女が乗せたであろう場所に手をかける。 彼女の言葉を頼りに、ゆっくりではあるが一歩一歩確実に登っていった。 |