13 足場の悪い道をなんも臆すること無くひょいひょい走っている。 その上でひょいひょい木々を渡るレアの姿。 なぜあの速さで安定できるのだろう、とエラムは不思議に思いながら彼女を見上げる。 しかし、それが間違った行動であることに気づいたのは程なくしてである。 彼女は今町娘と大して変わらぬ恰好。 要するにスカート。そして下から見ている彼の目には、そのスカートの中の白く細い足がよく見えた。 「……ッ!」 自分がなにをしていたのか、エラムはバッと自分の足場を確認するつもりで顔を伏せた。 しかし彼の頭は目が見ている情報ではなく、先程の情報を映し出す。 細くて白く、しかし程よく筋肉のついた締まりのある足。 しかしやはり自分とは程遠い足。しなやかに空気の上を滑るそれが陶器のように思えた。 意識してはいけない。そう思っても一度思ってしまったらなかなか離れない。 しかし彼女のことは見失ってはいけなかった。よって彼が出した結論は「あくまで視界に入れる程度」の彼女の場所の認識だった。 頭に焼き付いてとれない火傷を地面を蹴るとともに振り払っていると、上から声が降ってきた。「エラム様」 呼ばれて上を向くと、スカートの裾を太股の後ろに巻き込みながらしゃがんでいるレアの姿があった。 おかげで脳裏にちらつく白く細いものが見えない。 ほっと騒ぐ心臓を押さえ込み、冷静を装いながらエラムは首を傾げた。 返事をしない理由。簡単だ、裏返ったらどうする。 「エラム様、一度この木の上に」 また木の上に登れと、彼女は言った。 自分が木の上を移動するのには時間がかかることは彼女も既に承知済みのはずだ。 つまり、考えられるのは木の上に行かないとこの先進めないのだろう。 登るだけなら得意な方だ。エラムは慣れた手つきで掴めるところを探し、腕に力を込める。 彼女のいる枝は、そこまで高いところではなかった。 その枝に足をかけようとすると彼女が止めた。「そちらの枝でお願い致します」 指差す方には少し太めのがっしりとした枝。たくさんの葉を纏うそれはいかにも強そうだった。 一方で彼女の立っている枝はそこまで太くない、少し痩せた枝だった。 それでも緑の服は纏っており、彼女の白い髪がよく映えた。 「エラム様、あれが見えますか?」 「"あれ"……?」 彼女が指差す先には、たくさんの実をつけたキイチゴの木だった。 一般のキイチゴと大して変わらないであろう背丈。しかし、生えているところがまったく一般的ではなかった。 今、彼らの目の前には大きな壁ーー崖だ。 キイチゴはその崖の側面になっている。しかも今のエラムの位置から考えても、自分の背丈の十倍くらいの高さに。 そう、採りたければこの崖を登れと言うことである。 遥か高い位置に生きるキイチゴを目に映しながら、エラムは軽く青ざめた。 |