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木を渡ると言うことはそう簡単なものではなかった。

元より楽にいけるとは思ってはいなかったが、ここまでとは。
エラムは目の前で滑るように木から木へ飛び移るレアを見ていた。

なるべく同じ枝に足を置きながら進んでいるつもりだが、彼女の数倍安定しない。
一度足を置いたら幹に手を添えてバランスを取る。そしてそれが安定してから次の木へ飛び移る。

しかし彼が幹に手を置いている間にも空気の上を滑っていくレアは、時折彼を見て、彼の存在を確認していた。
決して自分を見失わないように、自分が先に行き過ぎないように。

エラムはそれに気づいていた。二、三本枝に足をかける度にこちらを見ていたのだから。
それに申し訳なくなってきた彼は、自分の立っている枝のすぐ下を見た。

山の中でも、誰も足を踏み入れていないようなところ。
踏みならされていない地面はとても足場が悪そうだった。

ーーしかし、それは普段の道と比較してである。
エラムは今自分が立っている場所と比較してみればそれは一目瞭然。地面の方がきっとずっと楽だろう。

少し前にいるレアに声をかける。「レア様!」

彼は彼女に敬称をつけていた。「殿」ではなく「様」を。始めにそう呼んだときは「私に様などつけなくてでいじょうぶでございますっ!」と「大丈夫」を噛んで言い間違えるくらい戸惑っていたのだが、「助けていただいた上に看病までしていただいた恩人ですので」と言えば不服そうではあるがなんとか押しきれた。

呼ばれた彼女は未だになれず、不服そうだがしっかりと反応してくれる。
「なんですか?」とひょいひょいと枝を戻り、エラムと同じ枝に留まった彼女はそのまま彼の隣に立つ。

その瞬間、がさりと枝が揺れた。「二人も乗って枝は大丈夫ですか?」エラムが問えば「大丈夫です。場所さえ選べば」となるべく根元に立つレア。

「……そ、それでなんのご用件でありますか?」

レアは先程よりもずっと落ち着いて戸惑うこともなく話す。
それに少しの喜びを感じながらエラムは提案した。「木を渡るのでは、私はかなりの時間を要してしまいます。そこで、私だけ木を下り走ってレア様の後ろを追っていきます」

それでもよろしいですか? と彼は問う。彼女は考える素振りもなく、わかりましたと承諾した。

慎重に木を下りるエラムを見届けてから彼女も足を進めた。

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