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石化は皆共通、似たような力はあってもまったく同じ力はない。
ですが、それは互いが生きておればの話でございます。蛇も世代を交代するのでございます。

例えば……そうですね、では私の力を例に致しましょう。
私の力は未来予知でございます。そしてその未来予知の蛇は私が生まれる前、別の者の蛇でございました。
私達は死んだその時、蛇を体内から逃すそうです。私もこの目で見ました。曾祖父が亡くなったその瞬間、口から白い蛇が出て行く様子をーー。

「……皆様、そんなに顔を歪めないでください。せっかくの美しい顔に消えない線が早くも入ってしまいますよ」

これでも細かい描写は自重しているのだ。シロンは少しいじめてみようかと悪戯心が顔を出したが、無理矢理閉じ込めた。

「……と長々しくも我々メンドーサの説明をさせていただきましたが」

口が渇いたのか、シロンは茶で潤してからまた口を開いた。

「実は私、もうメンドーサの民ではないのです」

「……は?」

マヌケな声を誰がこぼした。しかし、それが誰のものかなんて誰も気にしてもいなかった。
驚愕で叫びたい気持ちもあった。が、それは半回転して裏側へと行ってしまったようで、彼らは目を点にしてシロンを見ていた。

「私は民族としての掟を破り、自分の意志で夜な夜な一目を盗んで逃げました」

アルスラーンは食いつきながら問う。「な、なんの掟を破ったのだ」

シロンは無邪気な花を咲かせた。

「簡単な話でございます。私は人間の男と交わり、レアを腹に授かっておりました」

民の掟。それは他と交わらないことだった。

「メンドーサではメンドーサ以外の配偶者は一切認められませんでした。まだ自分がそれを破るとは思いもしなかった幼少期は、なぜだと問うてもまだ早いと言って跳ね返されておりました」

しかも私のような白蛇の一族は人が圧倒的に少ない上に他の者より力が強いとかなんとかでまたさらにその辺りは厳しかったのでございます。

しかし私には姉がおりました。男の従兄弟もおりました。姉と従兄弟は伴侶でございました。
白蛇の血なら濃く残り、安定ではないかと思い家族から離れ、愛する夫の元へ行き二人で気づかれない遠くまで行き、ここで生活を始め、レアは外の空気を吸いました。

彼女が空気の味を知ってから一年、私は彼女に蛇が宿る瞬間を見ました。
隣には夫もおりました。夫はメンドーサとしての私を受け入れ、自分の子にもそれが宿ることもすべて受け入れておりました。

混血のメンドーサの子にも蛇が宿るのかどうかは定かではございませんでしたが、蛇は現れたのです。

その瞬間、私は思い出しました。
メンドーサはメンドーサ以外の配偶者が認められなかったこと。

そして私は恐ろしい考えにたどり着きました。人一人に蛇は一匹。

「しかし、レアの前に現れた蛇は……六匹でございました」

蛇たちはまるで声でもかけあったかのように一斉に彼女に噛みつき、姿を消しました。魂を宿したのでございます。

「私達に同族以外の配偶者が認められなかったことは、メンドーサとしての血を色濃く残すためではなくて、混血のメンドーサをつくらないためだったのではないか、と。私はおもうのでございます」

シロンは冷めきった茶に口をつける。
自分で温くならないようにと言っていたのに、彼女は茶が温いことに気づいていないようで茶を足すことは無く、また目を閉じた。

「私はその力がどんなものかを見るのも恐ろしくて、彼女にはなにも伝えてはおりません。まず、自分にメンドーサの血が流れていることも知っているかどうか……。彼女は書物が好きなのです。家にはたくさんの書物がございますので、そこで既に察しておるかもしれぬのです」

山からを出るのを禁じ、他人へと干渉するのも控えるように。そう娘に言い聞かせてきた。

「レアはなにも知らないのです。山のことと、書物の空想世界と、父親がもう起きることはないということと、私が話したこと以外あの子はなにも知らないのです」

山の外がどれだけ広いのか、人というものがどれだけ温かいのか。

「あの子は母親の私がどれだけ大きな罪を背負っているのか、自分がどんな存在なのかを知らねばならないと思うのです」

王族に彼女の身を預けることも、メンドーサの中ではあってはならない大罪だ。
王族に身を寄せるということは全土にメンドーサの存在を知らせること。メンドーサがどういうものなのかを知らしめること。

「それでも、あの子はアルスラーン殿下についていくべきだと私は思っております」

遠くない未来に国を、大陸を見渡す少年へ向けて丁寧に頭を下げる。
声は震え、絨毯にシミをつくり、広げていく。

「メンドーサの血ゆえ、五感、身体能力には優れておりますことを保証いたします。まだ戦い方は知りませんが、ご指導いただければすぐに身につけ、戦の際にも荷物になることはないと思います」

お願い致します殿下、娘をどうかお仕えくださいませっ……。

風が茶を揺らす。木々が歌い出す。
悲しみなんて知らないような、楽しい歌。

それに乗って王子は答えた。

「……もちろんだ」

仲間が増えることは悪いことではないしな。それにそなたらには借りがある。

そう微笑んだ広大な王子の心に、シロンはありがとうございますと頭を下げるしかなかった。

太陽はほんのりと赤を強くさせる。包み込むようなそれはとても温かかった。

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