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「……お願いがございます」

切れ長の目は重く伏せられた。揺れる茶の水面に自分の顔を映す。
そこに映る自分の目も揺れる。それが涙でないことが彼女にとっての救いだった。

「娘を……レアも共に連れて行ってはくださいませんでしょうか」

彼らの背後をよく見れば、もしかしたら稲妻が見えていたかもしれない。
しかし、驚愕の声を漏らしたのは十四の少年ただ一人だった。
他の者は驚きはしたものの声には出さない。ーー策士な芸術家は違ったが。

「これはこれは……理由をお聞かせ願えますかな?」

シロンはもちろんでございます、と承諾してから全員の器に温かい茶を淹れた。

「また温くなってしまわぬように。温くなってしまったらいつでも申してください」

話の尺は短くはない。それを汲み取るには十分過ぎる言葉だった。

「そうですね……まずは私達のことをお話致しましょう」

ーー先程ギーヴ様がおっしゃられたように、私達の祖先はここよりもう少し西の方にありました。

まず先に申しておきます。私達は元々は皆様をなんら変わりない、ヒトでございました。
そしてメンドーサの言葉の由来。"メンドーサ"とはそこの地方に伝わる神話に出てくる美しい娘の名前でございました。

その神話はと申しますと……ある神からの求愛を受けたら別の女神の嫉妬くらい……だの、そのある神をあろうことか神殿で交わり、その神聖を穢したとその女神に……だの、諸説はございますが、それらにより髪は蛇に変えられ……と言ったように化け物にされてしまったそうです。

……と簡単ではございましたが、これが神話のメンドーサでございます。

ですが、私達はその神話のメンドーサとは一切関係がございません。

「……え!?」
「長々……ではなかったが今までの説明はなんだったのだ……」

「ふふふ。まあまあ殿下にダリューン卿、そこまで口と目をお開きにならないでください」

私達は先程も申し上げました通り、元はヒトでございます。
私も生まれたときから髪に蛇を宿し、石化させることができたわけではないのです。

「……なんと」

ナルサスまでもが言葉を失った。ギーヴに至っては口を魚のようにパクパク動かすだけだし、ファランギースも目を丸くして聞いていた。

そんな様子を面白がってか、シロンはふふふっと小鳥のさえずりのように笑うのだった。

「この世の空気を吸い始めた季節から二度目のその季節……簡単に申し上げれば一年ですね。一年後に力を持った蛇がその赤ん坊に噛みつき、魂を赤ん坊に宿すのです。我々メンドーサは、その時からこの世に生を受けたとみなされるのです。つまりその一年後、赤ん坊の年は一つになるのでございます」

「……ん? となるとレアという娘は……」ギーヴが顎に手を添える。彼女は微笑んで頷いた。その通り、皆様と同じ年の数え方をすれば今は十二、もうすぐで十三となりますね。

エラムと同じ、そして私の一つ下ではないか。アルスラーンはまた一人、年の近い者ができて口元が緩むのを抑えられなかった。

シロンは続けた。「私達が"メンドーサ"と呼ばれる理由は単純に、使える力が神話のそれと似ていたからでございます」

我々は民族として集団で生活しておりました。ひっそりと、自分たちがメンドーサであることを隠しながら。

理由は簡単です。力を悪用されないためでございます。
蛇は皆。、石化をさせる力とあと一つ、別の力を持っておりました。
そのもう一つの力は十匹の蛇の中に十種類あるように、同じ力の者は誰一人としていなかったのです。


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