6 ダリューンは甘い花の香りを口に含ませてから問うた。「馬は無事か?」 シロンが答えようと口を開くも、それよりも速くレアが首を縦に振っていた。 それを聞いて安心。シロンは補足する。乙女草の毒は人にしか効かないんです。 おかしな草だ。全員が思った。 ある程度時は過ぎ、気温も上がってきた。太陽も真上くらいらしい。 そろそろ潮時か、とナルサスは動き出す。「殿下、そろそろ私達も動きましょう」 そうだな。そういって腰を上げようとしたアルスラーンを、シロンが止めた。ああ、少し待ってください。 「もう少し、ゆっくりなさってください。お渡ししたい物もございますし……」 その一言に、レア以外の全員の表情が一瞬、本当に一瞬、固くなった。 しかし彼女はそれに気づいていないようで変わらず笑顔。そして言葉の続きを述べた。 「皆様に近道とか、山のことをお伝えしたいので」 どうするべきか。アルスラーンは思った。 しかし、彼が考えるよりも早くに彼女は娘に仕事を渡す。 「レア」 「はっ、はい」 シロンは言った。それはまるで魔法の言葉のように不思議な言葉だった。 「キイチゴを摘んでおいで。それもかごいっぱいにね。太陽が赤くなったら帰ってきなさい」 レアは「はい」と短く返事をして、すぐそばにあるかごを腕にぶら下げた。 すると素早くナルサスがエラムに声をかける。 「エラム、お前も行け」 エラムも先程の彼女のように短く返事をすると、腰を上げる。 その時、かごをぶら下げた彼女が腕をぶんぶん振り回す。「いえそんなッ!」 「私は何度もやって慣れておりますので大丈夫です! 皆様はお客様で病み上がりなのです! まだそこまで身体を動かさないでくださいっ!」 ナルサスが微笑む。「いえ、我々は旅をしている身。そのくらいたやすいものですよ」 「それにまだ我々はあなたに一つの恩返しもできていない。少しくらいお礼をさせてくれ」 しかし未だに首を横に振り続ける少女をよそに、エラムは自分も彼女の横にあったもう一つのかごを腕にぶら下げる。 シロンも彼女を諭した。「お言葉に甘えさせてもらいなさい。その分、たっぷりと採ってくるんだよ。でも、採りすぎないようにね」 母の言葉は絶対。レアは渋々と言ったように、いつの間にかもう一つのかごをぶら下げている自分より頭一つ分くらい高い彼の顔を見た。 「エラムと申します」 「あ……はい。で、では、よ、よろ、よろしくお願い致します。レア、と申します」 なにを今更、と思いつつエラムは部屋の出入り口ともなっている布をくぐった。 行って参ります。行ってらっしゃい。怪我をしないでね。さまざまな声に背中を押されて二人は家と言う名の洞窟を出て行った。 |