「ふふ、主はお兄ちゃんが恋しいのですか?」

くすり、手を添えて上品に一期一振はひとつ微笑むと、あなたを手招きしました。

「…ではこちらへおいで。私が甘やかしてあげよう。」

片膝を立てて座った一期一振はいつもより砕けた印象で、近づいたあなたの手を引きます。
一期一振の足の間に、あなたは背中を向けるようにしてちょこんと三角座りをしました。ふふ、と笑った一期一振の吐息が、首筋に触れます。

「そう緊張せずに、ほら、もっとこちらへ。」

言いながらお腹へと手が回ります。そのままぐいと引き寄せられて、一期一振の両脚は閉じ込めるようにあなたを囲ってしまいました。
この距離感で、緊張しないなんて到底無理な話。あなたの小さくなった肩に、一期一振がそっと顎を乗せます。

ぎゅう、と隙間なく抱きすくめられると、あなたの心臓はどきどきと高鳴ります。
そしてその音はぴたりとくっついている一期一振の胸にまで、よく届いてしまうのです。

「お前は可愛いね。」

いつも凛々しい声が今はとろりと甘く、きっとわざとでしょう。あなたの耳をねぶるように吹き込まれます。

「ふふ。…兄である私に、こうも胸を高鳴らせるとは、いけない子です。」

あなたが身をよじるにつれて、一期一振の目が、だんだんと怪しい光を帯びはじめます。

「どうしてそんなにびくついているのかな?…お兄ちゃんに説明してごらん。」

あなたが言葉に出来ないで俯くと、さらり、髪が流れて無防備な首筋が一期一振へと晒されました。

それを見た彼は、にわかに目を細めました。これは、役得ですな、と。

「…言えないのかい?」

脇腹を、大きな手が這います。
あなたの頭からは、もくもくと湯気が出ていることでしょう。

「妹を躾けるのも兄の役目ですから、仕方ありません。…お仕置きですよ。」

へ?とあなたが思った時にはもう、一期一振の唇が首筋に触れたところでした。

そしてちゅう、と肌を吸われると、お腹の奥のほうがきゅっとしぼられるような感覚がしました。
ふ、わ、と上ずった声が自ずと口からこぼれて、あなたの肌に唇を滑らせる一期一振をいっそう喜ばせてしまいます。

お腹に回っていた右手は、皮膚を鷲掴むようにして上に、上に。脇腹を撫でていた左手は、あなたの体の曲線を愉しむように下へ、下へ。

あなたの思考と一期一振のイメージが、ばちんとショートしかかったところで、抑えたような笑い声が背中から聞こえてきました。

「…ふ、はは。少しやりすぎたようですな。」

突然変わった声色に、あなたがばっと振り向くと、一期一振はくつくつと笑っています。
そこに、先ほどまでの淫靡な雰囲気は微塵もありません。

「申し訳ありません。あなたがあまりに、可愛いものですから。」

む、とあなたが唇を尖らせると、一期一振は優しく微笑んで、あなたのこめかみへとキスをします。

「あなたが妹でなくて、よかったです。」

一期一振の指先が確かめるように首筋の跡をなぞったら、それはひらりとあなたの胸に落ちてゆき、恋の火種となるのでした。



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