「よう大将。待ってたぜ。こっちへ来な。」
さすがは薬研藤四郎。どっしりと胡座をかいてあなたを手招きしています。
あなたが近づくと、惜しみなく広げた脚の、内腿をてしっと叩いて上目遣いで笑います。
「んじゃ、さっそく始めるか。ほら、横になりな、たーいしょう。」
白い腿の眩しさに、あなたは躊躇いながらも、そっと頭を乗せました。
薬研藤四郎の指がするする。こめかみから髪をすくい上げて、耳の後ろへ引っ掛けます。
他人に耳を弄られる緊張感に、あなたが身をを固くしていると、ふっ、と笑う薬研の声が落ちて来ました。
「なんだ大将、緊張してんのか?俺っちがしーっかり気持ち良くしてやるから、大将は安心して身を委ねてりゃあ良い。」
その言い方は、余計になにか良からぬことを連想させるのでは、とあなたは思わなくもなかったですが、そこは薬研藤四郎。持ち前の男気で、いやらしさを感じさせません。
「可愛い耳だな。」
耳の外側の軟骨を、薬研の指がなぞります。背筋をなにか、ぞくぞくとしたものが這い上がり、あなたは目を閉じて声を抑えました。
「…おっと、はは。悪いねぇ大将。つい脱線しちまった。…だがこんな調子じゃあ、先が思いやられるぜ?頑張って耐えてくれよ。」
言いながら薬研は、水分を染み込ませたガーゼを指に巻きつけます。そして、耳の軟骨、その窪みを丁寧に拭き取りはじめました。
がさがさという、ガーゼを巻いた指が耳にやわらかく擦れて、気持ち良く、拭かれたところから、すぅ、と涼しさを覚えます。
ガーゼに染み込ませていたのは、どうやらただの水ではなく、精製水にミントを垂らしたものでした。
風の通りが良くなって、なんだか耳が、いつも以上に敏感になった心地がします。
「耳が赤いな。強くこすりすぎちまったか?痛かったら、ちゃあんと教えてくれよ。」
今度は湿らせた綿棒が撫でるように耳の中へ侵入して来ました。
先ほどのものと同じく、綿棒に撫でられたあとから、どんどん、涼しい風が耳奥へ通っていきます。
ゴソゴソ、と耳の穴の壁に綿棒が擦られる音が、鼓膜を絶妙な優しさで苛めてきます。
あなたが肩を竦めると、薬研が手を止めてそっと、体を撫でてきます。
「しーっ、ほら、大将。力抜きな。あんまり可愛い反応されると、耳掻きどころじゃなくなっちまうぜ。」
冗談めかした脅し文句も、笑い飛ばす余裕がないあなたは目を固く瞑って、無心になろうと努めました。
綿棒に沿う、薬研の手つきを想像したら、動作の予測がつき、なんとか耐えられそうです。
くりくりと、奥まで撫でるように拭き取られて、しゅる、綿棒が抜けた、と思った時でした。
ふーっ。とあなたの耳の穴へ薬研が息を吹き込みます。
全身の毛が逆立ち、腰が浮かび上がる感覚に、思わず声をあげたあなたを、薬研は至極楽しそうに眺めています。
近くに寄って、耳に唇がつくのではという距離で、薬研が囁きかけました。
「大将は、随分敏感だな。」
熱を逃すような薬研のため息があなたを煽るように、あつく頬へかかりました。
「もっと可愛がってやりたくなる。」
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