「僕が、膝枕をするんだね?」
なんとなく威圧を感じつつもあなたが頷くと、歌仙兼定は仕方ないなあ、といった風に溜め息を吐きました。
「やはりそうなのか。それなら主、こちらへおいで。」
息の端でふ、と笑った歌仙はあなたを手招きます。
おずおずと、正座した歌仙の膝に頭をよせると、肩と頭に優しく手が添えられて膝の上へ誘われました。
下から見上げても、綺麗な顔をついしげしげと眺めていたら、歌仙があなたを覗き込みます。
「…どうしたんだい、そんなに見つめて?」
これは、答えをわかっている顔です。彼は、いつも自信に満ち満ちていますが、あなたから貰う褒め言葉は格別に嬉しいのです。
あなたが素直に歌仙のことを褒めると、それはそれはうつくしい、うっとりとした笑みが彼を一層輝かせました。
「たまになら、こういったことに興じるのも悪く無いものだ。」
歌仙の右手が、あなたのおでこから髪をそっと撫でます。
綺麗なかんばせとはうらはら、とても男の人らしい指先。それを丁寧につかって、あなたのことを慈しみます。
やがてうとうととした眠気が、あなたの瞼に積もり、目がとろりと閉じてしまうでしょう。
溢れおちるように微笑んだ歌仙は、広い背中をそっと丸めて、あなたのそばに顔を寄せました。
花びらが乗るように、ひらりとした軽さで瞼へと口付けが降ってきます。
まどろむ意識の水面に落ちた波紋。あなたの思わず開けそうになった目を、歌仙の左手が覆い隠して、顔を見ることは叶いませんでした。
いま、口付けられたのかという疑問は歌仙のいたずらに笑った声で確信へと変わります。
「っふふ。耳まで真っ赤になって。やはり君は可愛い人だね。」
くつくつと笑う歌仙兼定の声が木漏れ日のように、あなたの耳を撫でます。
恥ずかしくもくすぐったくて、あなたにも笑いがこみ上げてきます。もう、眠るどころではなくなってしまいました。
「ねえ、主。こんな日が、ずっと続けばいいね。まどろむ君を見ながら、四季を愛せたら、僕は他になにも望むことはないよ。」
なみなみとした穏やかな時間は揺蕩いながら、二人のそばを静かに流れていきます。
その音はまるで、遠いせせらぎのように、二人のことを包むのでした。
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