遠いとおい


寝たか…?
大倶利伽羅が、そっと目を開ける。

助けるつもりが、借りを作ってしまうとは情けない。情けないのに、目の前で健やかに寝息を立てる彼女の顔を見たら、ため息も舌打ちもどこかへ行ってしまう。

すっと身を起こす。寝具が僅かに揺れたが、彼女は眠ったままだ。肩の傷はすっかり癒えている。やはり、かなりの霊力をつかわせてしまったらしい。
「…悪かった。」
謝れど、返ってくるのは寝息ばかりだ。

大倶利伽羅は凪いだ表情の下で、昨日のことを静かに思い出していた。まるで屈託無く刀を扱う指先に何度も肝が冷えたが、自らの刀身は見事に手入れされている。正しい手順をすっ飛ばして、直接分神に霊力を注ぐやり方。…顕現したての頃、重傷を負った自分に今の主がしたことがあった。資材と時間を使わない分、霊力を使う危ういやり方だ。

本来なら、他人が近くにいることを疎ましく思うはずの自分が、どうしてこの女を嫌だと思わないのか?
大倶利伽羅は自らの胸中に渦巻く感情に、名前をつけられないでいた。

少しばかり隈になっている目元を労わるようにそっと撫でて、立ち上がる。

名残惜しんでは居られない。
生きる世界が違うのだから。




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