ほどける


荷物を抱えて部屋へと戻ってきた大倶利伽羅に、キッチンに立った名前が声をかける。

「お届けもの?」
「…ああ。」

当然名前が家主なので、届くとすればまず自分宛で間違いない。
今朝届いた謎の粉と小道具たちをちらりと見て、また変なものかもしれない、とチャーハンをレンジに入れながら頭の片隅で考えていたら、ばりい、とガムテープをひっぺがす音。

えええ!最近の学生は人んちの荷物も勝手に開けちゃう感じ!?と彼女は戸惑いを隠しきれない。垣間見えた伽羅くんの横顔は、表情筋の稼働率0%で、まさに素。当然だと言わんばかりである。

がさり、と開かれるダンボール箱。
丁寧な動作で、荷物を取り出す大倶利伽羅の傍に寄り、名前が手元を覗きこんだ。
そして驚く。
中に詰められていたのは男性用の衣料一式に、歯ブラシなどの生活必需品。奥の方からはどう見ても新鮮な野菜まで出てくる。

「…仕送り…??」
「そんなとこだな。」

そんなとこなの??
名前は一人暮らしを始めてこのかた仕送りを受け取ったことなどない。さらに言うと両親も祖父母も都会暮らしなので、つやつやとひかっている生野菜が異質すぎる。私宛てじゃ…ないのか??

「伽羅くんに…?」
「ああ…。」

何故??何故ここに届く??という疑問は、ぐしゃあ!と紙が握り潰された音で吹っ飛ぶ。
なにごと!?と視線を向けると上目遣いの金眼と視線が合う。

「…見たか?」
「見てないけど…。」
「そうか。ならいい。」

いったいなんなのだろう。
何かから追われてここに来たらしい青年は、ここで暮らす気まんまんであるらしい。
匿ってくれと言う割には誰かに住所バレてるんですがそれは大丈夫なんだろうか。というところでピーっという電子音にまたも思考を遮られる。
温まったチャーハンが名前を呼んでいる。

「…食べないのか?」
静かな瞳に見上げられて、ううん、となんとなく詮索する気が失せてしまった名前は、大人しくチャーハンを手に取ってテーブルに座った。

大倶利伽羅の手のひらの中握り潰された紙には、『大倶利伽羅!男を見せろよ!』と書き殴られている。しかも毛筆で。言わずもがな、主の字だ。

大倶利伽羅は、どいつもこいつも…。と思いながらも、背中にかかった「美味しい。」という声に嬉しくなるので、ほんとうにやっかいなことが自分の中で始まったんだと思い知る。

「…良かったな。」

ふとこぼした言葉に返事が返ってきて、名前ははたりとする。
頬にかかった髪の隙間から少し微笑んだ口許が見えて、名前の頬にもまた、つられるように笑顔が浮かぶ。

「うん。」

当然のようにそこにある背中と、返ってくる声。名前は、だれかが部屋に居るっていいな、と安らいでしまって、意外と高かった自らの環境適応力にあきれた。

いつの間にか作り置かれていたチャーハンの優しい味に、絆されたのかもしれなかった。


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