恋乞う小鳥
「……。」
大倶利伽羅の静かな眼差しは、膝の上の名前にそそがれている。
彼はいま、名前を膝枕していた。
光忠が見たら、知らぬふりをしてその場を離れるだろう、太鼓鐘ならば逆の膝に乗ってくるだろう。鶴丸なら、…いや、鶴丸に見られるくらいなら折れたほうがマシだ。
そんな慣れ合いそのものである。
膝の上で無防備に額を晒す名前を、そっと撫でた。龍の尾がついた左手が、瞼を覆う。
親指で撫であげた名前の眉間が熱かったので、大倶利伽羅は手袋を外して、冷たい自分の手のひらを彼女のおでこに当てた。
熱を奪うように、優しい気持ちを返すように。
そうしていたら、名前の表情が柔らかく緩んだ。つられるように、ふ、と自らの口からも笑みが零れて、はっとした大倶利伽羅は取り繕うように頬をひきしめる。
なにをやってるんだ、俺は。と大倶利伽羅は何度も我に返ったけれど、膝の上に視線を戻すたび、名前の寝顔に絆されて、膝枕を続けていた。
誰も見ていないのに、これは仕方のないことだ、と言い訳を重ねる。
だいたいあいつらが騒ぎ立てるのが悪い。
大倶利伽羅は記憶を辿る。
審神者に無理やり時空間移動装置に押し込まれたと思ったら、えらく見覚えのある建物の前に居た。さっきまで居た、名前のマンションである。
は?と首を傾げているところに、ぴらりと紙が落ちてきた。
『大倶利伽羅、彼女と仲良くなってこい。光忠たちも行かせるから、なにかあったときは…』というところまで読んで、後ろのほうに見知った気配を感じた。
2つ向こうの路地あたりに、居る。
やつらが、いる。
心底ウザい。大倶利伽羅の表情がこれほど雄弁に語ることはきっとそう無い。
チッという舌打ちを残して、彼はマンションの階段を駆け上がったのだった。
仲良くなれ。だと?
いったいどうしろって言うんだ。
大倶利伽羅は名前のことを憎からず思っている。この子が、大倶利伽羅自身の特別な想いを惹きつけているという自覚もある。
だけど、彼は知らない。
同じ気持ちになるためには、いったいなにをすればいい?
ぴぴぴ、と窓の外では、言葉少なな大倶利伽羅の代わりに、雲雀が恋を唄っている。
その囀りに応えるように、名前の瞼が、ふわりと開く。
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