拝啓、恋心
不良少年おおくり君…もとい伽羅くんを部屋に招き入れたは良いものの、何を話せばいいんだろう。
初対面な上におそらく訳あり未成年である彼に、質問攻めもまたよろしくなさそうだ。藪蛇は避けたい。
あぐらをかいて寛いでいる大倶利伽羅は、借りてきた猫のようにおとなしい。というか、めっちゃ名前のことを見ている。
視線を感じて、何度も目が合う。
「ん?」
「……。」
何かと首を傾げて見ても、静かに、ふい。と顔を逸らされる。
どうやら観察されているらしい。観察したいのはこっちの方なんだけどな。名前はなんとか間を繋げようと、大倶利伽羅に声をかけた。
「…ごはん食べた?チャーハンあるけど、一緒に食べる?」
大倶利伽羅が顔を上げる。
台所に、ラップがされたチャーハン。つい今朝方、名前にと自分が作ったものだ。
まだ食ってなかったのか。どうにも彼女はゆったりしている。いや、普段一緒にいる奴らがけたたましいから余計にそう感じるだけだろうか。
匿ってくれと言う見ず知らずの男を部屋に入れるくらいだ。どうにも危うい。危機管理能力が、低いんじゃないか。
転がり込んだ張本人の言えたことではないが、大倶利伽羅は至極真面目に名前のことを案じていた。
「…俺はいい。」
「いいの?」
「ああ。あんたが食え。」
「そっか、じゃあお言葉に甘えて、」
と、チャーハンを取りに立ち上がったとき。名前の頭がぐわ、と揺れた。くにゃりと部屋が曲がったと思ったら、それは自分の視界が回っただけだった。貧血である。
「おい…!」
焦ったような声が背後で聞こえて、倒れる、と思ったときには、目の前が真っ暗に。
体に痛みはなく、ふわりと何かに受け止められてゆっくり、落ちるように意識が沈んだ。
…全身の血がぞっと震えた感覚に、大倶利伽羅は青褪めた。不安に眉を顰めて、見る間にそれは、盛大なしかめっ面になる。
手入れの疲れが取れていないのだろう、抱きとめた体は驚くほど柔く、裏庭にやってくる小動物を思わせる。
くたり、力の抜けた体をそっと抱え直す。
「はぁ。」
ため息が出た。
頼りない、弱い。どうしてこんな厄介なものを、大切に思わなきゃならないんだ。
悪態をつく頭の中とは裏腹、彼は知らないでいる。無防備な名前の顔を見つめる金色の目が、息を飲むほど優しい色をしていること。
腕の中で呼吸する名前の鼓動が、とくんとくんと胸に伝わる。
大倶利伽羅は、慈しみ愛おしむという心が、自分の胸にあったことに気付いて、小さく驚く。
そして、馴れ合わないで一人を貫くことの難しさに、呆れた。
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