再配達をご所望


ぴんぽーん

さっきの宅配業者だろうか。やはりこの身に覚えのない荷物は、何かの手違いだったのかもしれない。
「はーい!」
名前は、よく考えもせず玄関のドアを開いた。開いて、目を丸くする。

そこにいたのは、男の子だった。こんなとき、女子の観察眼は本領を発揮する。
赤みがかった色の長い襟足、着崩された制服、捲られた腕にはタトゥらしきものが入っている。
名前は即座に把握した。
や、や、ヤンキーだ…!!

スカートみたいに布を巻くのは今の流行りなのか?という思案をぶち抜いて、刀!刀を携えているのが目に飛び込んできた。名前の視界では刀に向かって集中線が入った。
さ、さ、侍なの…!?!?

「匿ってくれ。」
至極当然のように言われて、頭が追いつかない。
どうしてか、初対面な気がしないのだ。だけど、この人との繋がりが、どうしても思い出せない。
こんな知り合い、居たっけ?と考えて、昨夜から記憶の曖昧な自分に思い当たる。こんなときに限って、信頼できない自分に内心頭を抱えた。

「…すみません、あの、誰ですか…?」
「大倶利伽羅だ。」
「おおくり、君?」
「……………。」

なぜそこで切る。

という沈黙だが、当然名前は分からない。漢字は大栗かと思っている。

「……??」
「チッ、……伽羅でいい。」
舌打ちされた!と思ったら、下の名前で呼んでほしいらしい。苗字に嫌な思い出でもあるのだろうか。

「からくん、聞きにくいんだけど、どこかで会ったことあったっけ?」
「…昨日…。」

うわあやっぱり昨日だった。昨日は間違いなく名前の人生におけるXデーである。

「昨日のことは、」
「おーい!!伽羅ちゃーーん!!」
「どこだー!?伽羅坊ー!!」

…覚えてなくて、と言いかけたところに重なる、張りのある二つの声。姿は見えないけど、マンションの5階まで聞こえる、相当な声量だ。
大倶利伽羅の背に、冷や汗が伝った。ややこしいのが来た…!冷やかされるのも、煽られるのもごめんだ。

声を聞いて、焦ったような眼差しと目が合う。
「頼む。…あんたのところ以外に、行くところがない。」
その目を無碍に出来なくて、名前は頷く。

冷静な自分が、どうして頷いたんだろう?と自問するけれど、答えは分からなかった。

ただなんとなく。
怖そうな見た目の奥にふわり、日向の海のように漂う温かさが肌に触れたような気がした。

その温かさが、知らず、懐かしく感じられたのだ。




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