4月1日の嘘 [薬研、長谷部、鶴丸]

*薬研藤四郎の場合

「大嫌い。」

あなたが言うと、薬研藤四郎は切な気にきゅっと眉を寄せました。
罪悪感が込み上げてきて、すぐに嘘を覆そうと口を開けかけると、人差し指でそっと口を塞がれます。

「わかったから、それ以上は言ってくれるな。」

むぐり制されて、そのまま話すわけにもいかずあなたが黙ると、薬研はまるで壊れ物でも扱うかのように頬へと手を伸ばします。

「悪いが大将、俺は、あんたを手放す気はない。」

薬研は、切ない表情のまま苦しげに笑って、言葉を続けます。

「どれだけ嫌われようと…傍に居てもらうぜ。その身が尽きるまで、ずーっと、な。」

仮に本当に嫌いになっていたとしても、今のでまた柄まで通ったわ。とあなたは確信して、胸のうちでそっとエイプリルフールに感謝しました。


*へし切長谷部の場合

「大嫌い。」

あなたが言うと、長谷部はこの世の終わりのような顔をして、覚束ない足取りで焼却炉の方へと歩いていきます。

「え…長谷部?」
「主に捨てられるくらいなら、炉に入ってきます…。」

生気を無くした悲壮な声で長谷部は答えました。目が据わっていて、どうやら本気のようです。ひやりと冷や汗が背中を伝い、あなたは慌てて弁解します。

「嘘!うそ!」
「……どうかご無理をなさらないでください…。俺が至らぬばかりに、お気を使わせて申し訳ありません。地獄でお会いした暁には、あなたの刀としてまた俺を使っていただけるよう訓練してまいります。」

ずうんと重い空気を背負って、めちゃくちゃ怖いことを言いながら長谷部が歩を進めようとします。地獄で再会する前提で炉に入るってどんな訓練なのか、発想の飛び方が恐ろしい。あなたは慌てて長谷部の腕を掴み、事情を説明する羽目になるでしょう。

「エイプリルフールっていう、嘘ついてもいい日で、嘘ついただけ!長谷部のこと、嫌いじゃないよ!」
「……嫌い、ではないのですか…?」
「うん!」
「……そうですか。主にとって俺は…嫌いではない、程度の男なんですね。」

ちらっと、長谷部が上目に様子を伺っていますが、つま先は変わらず炉の方向へ向いたまま。どうやら、あなたからのもうひと声を欲しているらしいです。
たとえ嘘を許される日だとしても、長谷部の心は重傷。嫌いじゃない、で多少持ち直したとはいえまだ傷は癒えていないようです。
空気の読めるあなたは、もうひと押しと言葉を重ねます。

「ほんとは好き、死なないで。」
「……!」

まっすぐな目で、あなたの顔を食い入るように見つめながら長谷部が瞬きを繰り返します。ずり、ずり、と炉に向けられていたつま先が、ようやくあなたへと向き直りました。紫の虹彩はあなたを待つかのごとく、信じても良いのですか?と縋るように揺れています。まさか軽率に吐いた嘘でこんな面倒な目に遭うとは思いもよらなかったことでしょう。

「ごめん…、長谷部大好き。」
「…!!主…!!俺もあなたが大好きですよ。」

もう長谷部をからかうのはやめようと心に決めて、長谷部から舞い上がる桜の花弁で花見でもするか、とあなたは遠い目をしました。


*鶴丸国永の場合

「大嫌い。」

あなたが口にすると、鶴丸は目をまあるくして、まじまじと瞳を見返してきます。

「なんだ、藪から棒に。」

言いながらふわりと近付いてくるので、身を引こうと後退りをしますが、ぐいと腕を掴まれて逃げられません。
とても強い力に、いつもは加減してくれていたのだと知るもすでに遅く。引き寄せられて腰を掴まれたら、顔を覗き込むようにしてさらに問いかけられます。

「俺のことが、嫌いなのか?」
「…きらい。」
「…ああ、そういうことか。」

まっすぐ目を見返して、濁りなく嫌いと答えたはずなのに、鶴丸は理解したと言わんばかりにすぐ近くで勝気に微笑みます。
そして、そっとあなたの耳元に口を寄せると、普段からは想像もつかないような甘い甘い声で囁きかけてくるのです。

「俺もきみが、だぁいっきらいだぜ。」

まるで愛を囁くような声色はとろりと耳へ流れ込み、あなたの背筋が震えるのを、鶴丸国永は見逃してくれません。

「きみにひどいいたずらをして、もっと嫌いにさせてやろうか?」
「…う、うそ!エイプリルフールの嘘!」

ひっ、と肩を跳ねさせたあなたは、慌てて弁解しますが、鶴丸はこの遊びをやめようとはしません。どうやら、嘘でも嫌いと言われたことに少しばかりお怒りのようです。

「ああ、俺のも嘘だ。…だが驚かせてもらった分はきっちりお返ししないとな?覚悟しておいてくれ。」

笑った鶴丸国永の瞳の奥に、ぎらりと意地悪な光を見つけて、あなたは瞬時に分の悪さを悟ることでしょう。いつも人の意表を突く鶴丸に、覚悟をしろと言わしめるとは余程のこと。
つい鶴丸の姿を探してしまうあなたに、したり顔の白い影は、来たる春にも譲らんと、その心に居座るのでした。


一覧へ戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -