乱藤四郎とポッキーゲーム


11月11日

火鉢の付いた部屋でごろり、畳の感触は優しく横たわった体を甘やかす。

ひまだなぁ。ひまとは最高だなぁ。と、ころころ寝転がって寛ぐ。
トントントンと軽やかな足音が聞こえて、さっと障子が開く。仰向けに寝転んだまま、あおぎ見れば、そこには乱藤四郎。

「ねえ主さん、ポッキー食べない?」
…ポッキーあるんだ。それはさておき。

「食べる。」
言うと、乱が隣にしゃがみ込み口元にポッキーを差し出してくれる。
「はい、あーん。」
あむ。咥えてぽりぽりと食べ進む。
「ふふ、主さん、おいしい?」
久しぶりに食べたような、懐かしい味がする。
「ん、おいしい。」

「じゃあはい、もういっぽんあーん。」
「ん。」
ポッキーを咥えたところで、乱がふわ、と立ち上がり、次の瞬間には、
「油断たいてきー!」
「!?」
腰の上に座られていた。

なにが起きたか分からない。咥えたポッキーの端、唇の中でチョコがゆると溶け出す。
投げ出した両腕を、肘を付くような格好で押さえ込まれる。力比べでは全く歯が立たない。
可愛いばかりの乱藤四郎に、組み敷かれている。

「ふふ!主さんお覚悟ー!…なーんてね。」
まさかとは思うが、まさかと思った時にはもう、ポッキーの逆の端が乱の口に入るところだった。
「…っ!」
細長いものを咥えている上のしかかられると、口を開けない。

ぽりぽりと躊躇なく、食べ進められていく頼りない菓子。突然開始されたポッキーゲームに、すでに頭がパンクしている。
見返す青い瞳は獲物を狩るように細められて、瞬きにさえも戸惑う。
乱の肩から髪がするりとしな垂れて、頬に触れて耳の横をくすぐるように地面へとろり流れる。

近い、近い近い近い。
ぽり、ぽり、ぽり、確実に近づく距離。

限界だ、目を閉じる。息を止めたとき、頭上でッパアーン!と襖が開いた。
「みっみ、乱!…なななななにをしているんです!」
いち兄がいちごポッキー片手に部屋へ飛び込んできた。

ぱき、と唇のすぐ近くでポッキーが折られる。乱藤四郎はむぐむぐと残りの破片を食べて、はにかむのだ。
「なーんだ、もう見つかっちゃった!」
言葉も出ない。これが放心状態である。

「ねぇ、いち兄も一緒に食べない?」
首を傾げる背景に、とぅるんとシャボン玉が見える。こんなに可愛い男の子が居るのか。男の子とはなんなのか。
今しがたまでの出来事が、遠い。

「たっ食べません!」
一期一振が握っていた、いちごポッキーの袋がぱきりと切ない音で鳴いた。

去り際に「ねぇ、またボクと乱れようね。」と囁かれた言葉に、どっちが男でどっちが女でどっちが兄でどっちが弟なのか。
頭の中を文字通り乱された11月11日の昼下がり。

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