鶴丸国永とハロウィン
10月31日
「よっ!主、おはよう。さっそくで悪いが、ちと口を開けてくれ。」
藪から棒。
寝起きから鶴丸。
「んー、なに…?」
答えながら、薄眼を開ける。秋晴れの柔い陽が目をさして、眩しい。
「ほら。」
「ん。」
唇の隙間、押し込まれたのは小さないがいが。なにこれ、と思った直後、それは口の中でほろろと溶ける。
星の砂は、甘い甘い。ひとつぶの金平糖。
人の安眠を妨害してまで、なぜいま金平糖を食べさせるのか。
「これで今日は、きみにどんないたずらをしても許されるんだろう?」
まったく話が見えないが、なにを言ってるんだろう。寝ぼけた頭を、隅から金平糖の甘さが溶かしてゆく。お菓子といたずら?
今日は、10月31日。
少し違うが、そういうことか。
「鶴さーーん!」
廊下の向こう、遠くから光忠の声が聞こえる。
「はは、気付いたようだな。主、すこし匿ってくれ。」
言いながら布団に入ってくる。
鶴丸の着物は、秋の朝の冷たさがしみていて、ひんやりと冷たい。
「鶴丸、冷たい。」
「それは違うぜ。きみがあったかいんだ。星の砂だって溶かしまうくらいだ。」
布団の中抱き寄せられて、捲れあがった袖。
肌と肌がくっついたところから、とろりと解れていくようだ。
温い、温い、人の身。
うるり、暖かさに潤んでくる瞳、俺も溶けてしまうかもしれないな、と鶴丸は頭の片隅で思う。
「何したん?」
「ああ、眼帯にかぼちゃの妖怪を描いた。」
「ふふ。」
大声で叫んで、光忠を呼ぶという意趣返しも思いついたけれど、今日という日にお菓子をもらってしまったので、それはできない。
体温の移り始めた布に二人で身を寄せ合う。
甘いなあ。と、どちらともなく呟いた言葉は、暖かな毛布の中で綿菓子のように溶ける。
心地良さに、目を瞑った。
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