鶴丸と雪の朝


8月4日〜拍手お礼文

「わあ、すごい!」
貴方が思わず手を叩く。

雪遊びに夢中になっていた鶴丸は、降ってきた拍手とその声に、きょとりと振り返った。
貴方の姿を認めるとその表情は笑顔に変わる。それはさながら登る朝日が差す瞬間のようで、眩しい。
「どうだ、驚いたか?」
そうして、少年のように無邪気に笑う。

季節は冬。
珍しく晴れた空の下、並々と庭に積もった雪の中。空気はきぃんと冷えている。

貴方はほう、と白い息を吐いて、雪の城を眺めた。
白い世界に混じって、ごそごそと動く影を見つけて、なんだと寄ってきてみたものの、そういえばこんなに白いのは鶴丸ぐらいだな、とサクサクした新しい雪を踏みながら考えついた。

「驚いた。きれいだね。」
こんな朝から何をしているのかと思えば、鶴丸は雪遊びをしていたらしい。
折り紙も、手遊びも、なにをやっても器用にこなす鶴丸は、短刀たちから密かに憧れられていることを、知っているのだろうか?
今日、彼の手は雪の城を築いていたようだ。

「主、見惚れるのは良いが、その格好じゃあ体が冷えてしまうぞ。」
言って、首にマフラーを巻かれる。
ふわふわのそれは、鶴丸の体温が移っていて、なお暖かい。
するり、首筋をかすめた指先に、貴方はぞくりとする。
鶴丸の方がよっぽど冷えている。
伸ばされた手を掴んで見やると、白い指先は赤く、つんと冷たい。

「つっめた…。」
手を労わるように握って、はあと息をかける。鶴丸は目を丸くして、また柔らかく笑んだ。

「これは驚いた。きみは暖かいな、溶けてしまいそうだ。」

一層嬉しそうに、鶴丸は言う。
鶴丸は真っ白なので、その風貌だけなら、ほんとうに溶けてしまいそうだと思わずにいられない。

でも、貴方は鶴丸を知っている。
人としての鶴丸国永を。

「ふふ、鶴丸は溶けないでしょ。」
「ああ、よくわかってるじゃないか。俺はそう簡単に溶けるつもりはないぜ。」

儚いのは、きみの方だ。
鶴丸は思ったが、言葉にはしなかった。
溶けない雪などない。せっかく築いた雪の城も、日が高くなれば崩れてしまうだろう。

白い息が貴方から溢れてゆく。
その身体の中で、命は暖かく、湯気を立てている。

鶴丸は言い知れぬ切なさに、胸が切れそうになった。
「俺は溶けないからな、もっと暖めてくれても良いんだぜ。」
言いながら、胸の痛みをかばうように、ぎゅうと抱きついた。

「あはは、なに、寒いの?」
「いいや、きみの暖かさを味わっておこうと思ってな。」
貴方は、それってやっぱり寒いんじゃないか、と思った。
そうして抱きついてくる肩越しに、綺麗なお城が見える。

「…溶けてしまうのが、もったいないなぁ。」

きみが、そう思ってくれるなら。
そうしてここに、留まってくれるのなら。
どんなものだって、作ることができる。
手が冷えようが、鼻水が出ようが、気にならない。

だって主、俺の手が冷えても、きみがこうして、また暖めてくれるんだろう?

「主、消えないでくれよ。」

貴方の手は、優しい。
人の心を暖めうる手だ。

「…?私はべつに溶けないけど。」

貴方の言葉は、頼もしい。
人の心を癒す力があるのだ。

鶴丸は願う。
もっといろんな顔を見せて、もっと俺に近付いてほしい。

ぱちぱち、貴方が打った拍手の音が、貴方が溢した言葉のすべてが。

心に響いて、たまらないんだ。



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