季節は晩秋、もうすぐ日が昇ろうかという早朝。いつもよりずっと早いこの時間にあなたはふと目覚めてしまいました。

妙に目覚めが良かったので、もう起きてしまおう。そう思い立ったあなたは、洗面所で洗顔と歯磨きを済ませて、本丸の廊下をてくてくと歩いていました。

もうそこまでせまっている冬が、夜の間に腰を下ろしていたのでしょう、まだ日のない廊下は冷たくて、あなたは自然と急ぎ足になります。

足先が冷たくて、畳が恋しい、そう思いながら部屋の障子を開いてその身をすべり込ませたところで「わっ!」白い影が眼前に飛び出してきました。言わずもがな、鶴丸国永です。

ひ、と驚いたあなたが肩を竦めると、鶴丸は満足そうに「はっはっは、驚いたか?」と笑っています。びっくりしたあなたの心臓はどっどっど、と大きく鳴って、心が退屈で死なないかわりに寿命が縮まったような気がするほど。

「きみ、起きていたのか。」

ほんとは寝込みを奇襲するつもりだったんだが、予想外だったぜ。と悪びれる様子もない鶴丸をあなたはじと目でもって嗜めます。

「おや、今回の驚きはお気に召さなかったかい?」

逆に、お気に召す驚きってなんだろう、と呆れていると、鶴丸があなたの肩をすとんと握って壁に追いやります。

笑顔の消えた鶴丸の表情はいつになく真剣で、あなたはされるがまま、とん、と背中が壁についてしまいました。

驚かされた余韻で、まだ忙しない心臓の音が、とくとく、今度は何かを期待するようにまた早鐘を打ち始めました。これが所謂壁ドンというやつです。

鶴丸、離して、と言いかけたあなたの唇は、つる、までしか言葉を紡げずに、鶴丸の唇で塞がれてしまいました。
むにゅーっと唇を押し付ける、加減を知らない子どもみたいな口付けです。

あなたは、んー!と声にならない声をあげて逃れようともがきます。しかし、彼の胸板を押し返そうとついた手は、びくともしません。

鶴丸は余裕綽々と、左手であなたの首筋を撫ぜ、そのままうなじをかきあげるようにして、大きな掌であなたの後頭部を抱き込んでしまいました。

押し付けるような口付けが一度ゆるんだと思ったら、今度はいっとう優しく、あなたの唇の感触を味わうように、鶴丸の薄い唇にはむりと包み込まれるような口付け。

ちゅ、とそれはそれはゆっくりと愛おしげに、下唇を食むようにして離れていく唇。それを追うように、あなたは思わず鶴丸の顔を見上げてしまって、後悔をしました。

鶴丸の、欲のくすぶった黄金色の眼差しは鋭く細められていて、あなたはただ息を飲むほかなかったのです。

きっと、ぜんぶ分かって聞いているのでしょう。再び唇を寄せながら「嫌かい?」なんて、まったくずるい手口です。

頭の後ろを引き寄せられて、上向きになったあなたの唇を鶴丸の唇が覆いかぶさるように塞ぎます。

ねっとり甘く吸われて、ふと漏れたあなたの吐息のその隙間さえ、見逃すつもりはないというように、鶴丸の舌が差し込まれます。

舌を絡めとって、ちゅうと優しく、労うように吸われると、簡単に絆されて、それは少し悔しかったのですが、そんなの、鶴丸の舌があなたの舌の付け根をなぞる頃には、もはやどうでも良くなってしまいました。

くらりくらりと思考がとかされて、あなたが鶴丸の着物をきゅうとつかむと、あいた右手が重ねられる。

は、ん、と呼吸さえも絶え絶えに、求めあうような口付けを交わしたら、愛しさで胸がしぼられるのと、同じ強さで握られた手に、ただただ想いがこみ上げて満たされてしまいます。

閉じられていた鶴丸のまぶたがゆるりと持ち上げられて、うっとりと開かれた眼差しは、銀色のまつ毛に羨望の光をのせてあなたを舐めるように見つめました。

ちゅうっと音を立てて唇が離れたら、今度はおでこを合わせて、ぎゅうっと目を閉じた鶴丸は、幸せを塗りつけるみたいにあなたへと擦り寄ります。

はあっ、と二人してあつい息をはいたら、あなたの米神にひとつ、ちゅ、と口付けが落とされて、そのまま抱きしめられます。
閉じ込められた腕の中で、あなたは鶴丸の心臓もまた早足で鳴っていることに気付くでしょう。

「好きだ。」

その言葉の向こうで、朝日が昇って、新しい一日が始まろうとしています。

あんなに冷たかったつま先まで、幸せで、すっかりぬるくなってしまいました。


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