じーわじーわと鳴く蝉が、いっそう暑さを感じさせる夏の日。まだ午前中だというのに、茹だるような暑さです。

朝一番の畑仕事を終わらせて、大倶利伽羅はひとり縁側に腰掛けていました。首にかけたタオルで煩わしそうに額の汗を拭って、ひと息。
存外穏やかな眼差しは、太陽を追うひまわりをぼんやりと見つめていました。

そこへ、からんからんと氷の触れ合う涼しげな音をたてて、あなたはやってきます。

大倶利伽羅の背中を見つけて声を掛けると、律儀にも振り返ってあなたに視線を寄越します。黄金色の視線にいつもの鋭さは無く、得意の無表情をほんのり緩めてあなたを迎えます。

お盆に乗せたガラスのコップの透き通った影が、あなたの歩幅に合わせてるらるら揺れて、その嬉し気な様子は、まるであなたの心みたいに光っています。

大倶利伽羅の表情をみて、あなたは彼よりもずっと素直な笑顔で、隣に腰を下ろしました。

おつかれさま、と大倶利伽羅に声をかけてコップに注いだ麦茶を手渡すと、静かに紡がれる声で「ありがとう。」彼はそう言って、丁寧に受け取ります。

ごくごくと麦茶を飲み干す大倶利伽羅の横顔を見つめると、額からこめかみ、そして頬から首に流れる汗の粒が光っています。よほど暑かったのでしょう、さらさらとしたそれは、褐色の肌によく映えて、彼の輪郭をいっそう眩しく衒うようでした。

ぽこぽこと上下する喉仏が、どうしても色っぽくて、あなたはこくりと唾を飲み込みました。

あなたの視線に気付いた大倶利伽羅が、すっかりからっぽになったグラスを置いて「飲まないのか。」と声をかけてきます。

あなたははっとして、ぽうとしていた自分自身を取り繕うように、こくこくと麦茶を飲みました。

麦茶は喉からお腹に流れるのが分かるくらいよく冷えていて、夏の日差しの透明なところだけすくったような軽やかな味がしました。

ぷあ、と息をついたあなたの唇に滴るしずくに、大倶利伽羅の視線は縫い付けられたかのように留まり、その一秒あとには糸に引かれるみたいに距離を詰めて、ちゅう、と唇がくっつきました。

触れ合った大倶利伽羅の唇はあなたの冷えた唇にじんわりと熱を移します。
その熱に呼ばれたみたいに、かあ、と胸がこみ上げて、心臓のおとで、あんなに煩かった蝉の声も、もう聞こえません。

驚いて固まったあなたの手の中で、グラスに触れた氷がからんからんと抗議するみたいに鳴るのを、大倶利伽羅は心底鬱陶しそうにちらと一瞥して、奪い取ってしまいます。

息を忘れてしまったあなたの頬に大倶利伽羅の左手が触れて、じっとりと這うと、あなたはたまらなくなって、目を閉じてしまいました。

取り上げたグラスを器用にわきに置いたら、大倶利伽羅もまたうっとりと目を閉じて、水分を含んだあなたの唇を味わうようにちろりと舐めあげます。

甘い、そう思ったのはどちらだったでしょう。

ちゅ、ちゅ、と何度も繰り返されるそれはそれは可愛いリップ音が恥ずかしくて、膝の上で握り締めたあなたの手。それを撫で付けるようにして大倶利伽羅の掌は、溢れ出す好き、を逃がさないように強く握り込みます。

あつい、暑い、熱い、あつくて、あつくて、さっき潤したばかりの喉が、もう渇いて、ふああと曇った吐息まで、角度を変えては飲み込まれて、涙が浮かびます。

眦の潤みをのがそうとあなたが瞳を開くと、大倶利伽羅の表情が夏の日差しのもとにはっきりと見えてしまいます。
眉根を寄せて、上気させた頬をして、長い長いまつ毛を伏せて、なにかを堪えるようなその顔に、愛おしさで胸が詰まって、また、あなたも目を瞑って、今度は自ら、隙間を埋めるように唇を寄せました。

寄せられた唇に、大倶利伽羅は口の端で笑むと、「冷たいな。」そう溢してまた、熱を分け与えるようにあなたの唇を塞ぎました。

茹だるような二人の心を、向日葵だけが見つめて、あついね、なんて太陽に目配せして、夏は温度を上げていくのでした。


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