また明日を重ねよう

廊下を歩く。
刀装部屋は確か本丸の端っこにあったはずだ。

それにしても広い。まだ夕方だから平気だけれど、夜になってからこのだだっ広いお屋敷を一人で歩きまわるのは…できれば歩きたくない。
そこで、腰にとすっと軽い衝撃。
「あるじさま、つーかまーえたっ!」
「がはははは!主よ!捕まってしまったなぁ!」
ついでぽんと大きい手のひらが頭に乗る。わしゃっと撫でくりまわされるかと思いきや、案外丁寧に、結われた髪を気遣ってぽんぽんと頭に手を置かれた。

「わ。今剣、岩融!」
ちっちゃい可愛いとでかい大きい。
お腹に顔を埋めていた今剣が名前を見上げる。
「あるじさまー、そんなにいそいでどこへいくんですか?ぼくとあそびましょうよー!」

くるん。
今剣は主を見上げながら、抱きついた体をうりうりと揺らす。

「えーっと、今から刀装つくるとこに行くねん。」
「むー。でも、そっちはくりやですよ?」
「あれ?」
「がっはっは、なあに、ここは広いからなぁ。迷うのも無理はなかろう!」
どうしたものか。この体たらくではもはや髭切をいじれない。
名前はショックを隠し切れない。

「では今剣、俺たちで主を案内してやろうではないか!」
「しゅめーというやつですね!よぉーし、ばびゅーんとつれていきますよー!」
「いいの?」
「なあに、今しがた馬の世話を終えてな、ちょうど暇をしていたところだ。」

内番帰りだったのか。
にしても、リアルに馬が居るのか。ステータスだけで見ていると、青毛なんかは鈍器のように使うのかと思っていた。
石切丸に長谷部を装備出来たら最強なのに…。

「そっか…!ほんまに馬もおるんや。」
「ぼく、うまのきげんをとるのがじょうずなんですよ!」
「馬かあ、乗ってみたいなぁ。」
「いいですよ!ぼくがのせてあげます!」
「ほんま!?」
名前は目を輝かせる。

「ならば俺もつきあおう。ついでにこの本丸の周囲を知っておくといいだろう。」
岩融はがさつに見えて、気がよく回る子である。繊細な気遣いが、立ち振る舞いや言葉の節々から感じとれる。
流れを断つことなく、ペースを整えてくれるような心地よさで。ちびっこの扱いが上手いわけである。

「うん!ありがとうー!」
「いまからですか?」
「いや、今日はもう日が暮れる。明日のほうがより遠くまで行けるだろう。」
「それもそうですね!ではあしたですよ、あるじさま!ゆーびきーりげーんまんです!」
「うん。約束。」
指切りなんていつぶりだろうか。名前よりも、小さな小指がそっと絡められる。
廊下に差す橙色の陽が、揺らした小指に陰ってちらちらと瞬きをする。

「よおし!では行くぞ。」
岩融が今剣と名前の中ほどで屈む。二メートルの長身が、ぐっと近づく。

ちょうど腕に腰掛けるように、担がれた。小さい子を抱くように、体のまえで足を抱えられて、今剣と向かい合わせになるように片手ずつで抱きあげられる。
力もちすぎるだろう。
こんな抱かれ方はおそらく3歳以来ではないか?

「こっわ!」
ぐらりと危なげなく床から足が離れる。浮遊感。肩に捕まって、身を支える。

「大丈夫!?絶対重いけど!」
「がはは!軽い軽い!主よ、落ちるなよ。」
「しゅっぱーつ!」

落ちるなよ、という言葉とは裏腹、身構えていたより揺れない。
風を切って、廊下を抜ける。
「いわとーし、」
「ああ、近道だな?」
言って、縁側から庭へ飛び出した。
眩しい夕焼けが、中庭の池を染める。きらきらきらと、唄のように光が跳ねている。
ひょいひょいと軽やかに芝生を駆けて、桜の木々を抜けて、橋に差し掛かる。
風が髪を、頬を撫でて気持ちがいい。
「ふふ、」
名前は思わず笑いがこみ上げてきた。こんなふうにされて笑うなんて、幼い子みたいだけれど、楽しい。

風が景色が、すべてがじゃれるように、楽しげに流れる。
「あるじさま、たのしそうです。」
「うん、楽しい。ふふ。」
「がっはっは!それは良い!」
あっという間に、反対側の縁側へ着く。

「ここですよ!」
「ついたー!ありがとう!」
「なに、お安い御用だ!では明日、頃合いを見て主のもとへ参ろう。」
「うん!よろしく。」
「もうまいごになっちゃだめですよー。」
手を振って、二人は再び庭へ。
今度は肩車をして駆けてゆく。
笑い声が遠のく。仲良しだな。

そして、ようやく刀装部屋の前についた。長谷部は怒ってるだろうか。

ふう。と一息ついて、こんこんと扉を叩いた。
待てというのならいつまでも、迎えにきてくれるのであれば。
よもやこのセリフを生で聴くことになろうとは。


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