もういいかい



とある春の日、午後二時のこと。
うららかな陽射し差し込む庭では、短刀達が戯れる声が飛び交う。
本丸はなんとも長閑な空気に包まれている。

そんななか、歌仙兼定はDMM刀剣乱舞登録者〇〇人の膨大なユーザーデータからついに主を突き止めることに成功する。
政府から届く戦績表の所属はそのままサーバー名であったし、審神者就任日すなわちサービス登録日であった。あとは出陣回数、所持刀剣、所有資源その他もろもろ。自陣の記録と一致するものはたったひとつだった。

雅ってこわい。風流ってすごい。古典の中からやってきたような日本刀が、厳重に管理された個人情報を盗み出してしまうとは、いったい誰が想像出来ただろうか。

もちろん誰にも知りえなかった、はずだった。

名字名前ー
まだ見ぬ主の名をそれはそれは愛しそうにひと撫でして、歌仙はいっそう焦がれた。
いつか会うことができたなら、どんなに幸せだろう。歌仙兼定は、その身をおぼろに暖める感情を抱いて、柔らかく微笑んだ。

もっとも、今は2205年。主はただの人間なのだから、百年前にはこの世を去っている。いまこうして、我らの指揮を執っている主は、もういないのだ。

時の隔たり。それを超える術など歌仙は知る由もない。まるで何億年の月日を超えて、光る星々のそれだ。
歌仙がいま見ている主の采配は、ほとんど200年も前の、彼女の仕草なのだ。
人の命の、なんと儚いこと。つきんと胸が痛んで、目を伏せた。まつ毛が頬に影を落とす。

「君を知ってしまったことを、少し後悔してしまいそうだよ。」そっとひとりごちて、届かないんだろうけどね。と心の中で自嘲する。

百面相に忙しい歌仙を、まったく面白そうに見つめる白い影がひとつ。

鶴丸国永は、歌仙の部屋の天井裏にいた。

何故か?、
それはもちろんご想像のとおり。
このところどこか上の空で、何かに執心している歌仙に驚きをもたらす。そのはずだったのだが。

「いやいや、返り討ちにあうとは驚いた。まさか主を見つけ出すとはなぁ。」愉快そうに口角がにっとあがり、目は燦々と輝いている。
これは鶴丸がなにかをたくらんでいるときの顔だ。おおごとになる前に、誰か止めろ!といったところでもう遅い。
鶴丸国永、幸運A+の男。
遠戦の弓も銃も石も、ぜんぶ彼を避けてゆくのだ。彼のたくらみを察してくれそうな、燭台切光忠と大倶利伽羅は現在遠征中である。

「名字名前。ようやく会えるなぁ。」


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