「約束したじゃんか」 「雨が降ったんだからしょうがないだろ」 雨が降ったら釣りができないってわけじゃないじゃない。それをほんの小さく、しかも釣りの経験がないから言ってみただけなのに「釣りナメんな」ってぼそっと言い返された。窓を見ればザーザーと音が聞こえるくらい雨が降っていてそれだけでテンションが下がる。「夏樹のばか」って、夏樹のせいなんかじゃないのに八つ当たりしちゃったら、「俺のせいじゃねーよ」って正論言われちゃった。当たり前だよね。 「俺だって楽しみにしてたけど」 「…雨だと危険?」 「…危険ってわけじゃないけど…」 「じゃあ釣りしようよ、わたしに教えてよ」 「だめなもんはダメだ」 「夏樹のケチ!ユキが同じこと言ったらやるんでしょ」 「どうしてそこでユキの名前が出てくんだよ」 「だって………」 夏樹はユキと釣りしている時、すっごく楽しそうなんだもん。言おうとしたけど声に出す前にやめておいた。「だってなんだよ」と言う夏樹の顔は苛立ちに満ち溢れている。夏樹怒ってるし、「なんでもない」って誤魔化したら「んだよそれ」って、すっごく怒っててなんでそれぐらいで怒るのよ夏樹短気すぎでしょ。なんだかこっちまでその夏樹の態度にイライラしてきた。「…もう夏樹知らない」って無責任な言葉なのはわかってるけど、言葉を選ぶよりも感情が先に出てきてしまってこんなことを言ってしまった。だけど今の夏樹の態度では「ごめん」って後ずさりもできなくて、むしろ「それはこっちの台詞だバカ」と言い返されてしまった。夏樹はそれだけ言い残してすぐに立ち去ってしまって、それからわたしは夏樹に声をかけづらくなってしまった。…やらかした、最悪だ。 ° ○ ° <・ )))><< 「最近夏樹と喋らないね〜〜?どうしたの?」 「ハルは知らなくていいよ」 「どうして?どうして知っちゃいけない?」 「夏樹とわたしの問題だから」 「でもオレ、心配だから早く仲直りして?」 「別にケンカしてるわけじゃないんだけど」 「ケンカじゃないならどうして喋らないの?」 ハルがわたしと夏樹が最近口も聞かないことに疑問を持ち始めたのか、わたしの席までやってきて問いただす。ハルに答えづらい質問をされてしまって「気分だよ、ハルもそういうときあるでしょ」と適当にごまかしてしまった。ハルは首を傾げて「わからない!」と正直にわたしに言ってきた。わたしにだってわからないよ。 「オレはみんなと一緒に楽しく話すの好き!だから喋りたくない気分っていうのがよくわからない」 「…」 「だから、早く夏樹と仲直りしてね!約束ー!」 「そんな勝手に約束しないで」 「…」 わたしが強めの口調でハッキリと言えば、ハルは黙り込んでしまった。むう、と頬を膨らませて怒っているようで、でもそんなのわたしにしてみればちっとも怖くないし、ハルがわたしたちの問題に口を出してくる意味もわからない。ハルはそのままくるり、とわたしのに背を向けて歩き出した。やっと解放された、と思ったのもつかの間、ハルはまたずんずんとわたしのほうに歩いてくる。しかも、夏樹の手を引っ張りながら、だ。「おい離せよ!」と後ろで抵抗する夏樹の声も全く無視。わたしの前にハルは立ち止まって、夏樹の腕を離した。そして、夏樹をわたしの前に立たせる。その瞬間夏樹とバッチリ目が合ってしまって、お互い気まずそうに目を逸らした。「…」「…」沈黙。そりゃそうだけど。 「仲直り!して!」 後ろから顔を出してハルがそう言う。どうやらハルはわたしたちを仲直りさせるまでずっとこうするつもりなんだろう。夏樹もそれは理解しているようで「あ、のさ」と声をかけたのは夏樹のほうからだった。恥ずかしいのか、微妙に目線は右下を向いている。 「俺だってお前と釣り行きたかったよ」 「約束してたのに…」 「雨降ってたんだからしょうがねえだろ」 「雨降っててもできるって言ったのは夏樹じゃん」 「できるけど…、でも危ないだろ」 「危なくないよ」 「お前の身に何かあったら危ないから、だから、晴れた日にやった方がいいかな、って思ってたんだよ」 「えっ!」 「お前釣りのこと何もわかんねえだろ」 「初心者だもん」 「だから余計に…、いや、もういい」 「なにそれ」 ふい、と恥ずかしそうに手で口元を覆って相変わらず目線は右下の夏樹を見れば頬がほんのりと赤く染まっていた。ふふっと声に出して笑うと「笑ってんじゃねー」って言われたけれど、夏樹のその気遣いが嬉しかったんだからしょうがないじゃない。ハルは「よかったねー!仲直り!」って自分のことのように喜んでるし。外は雨が降ってるけどわたしの気持ちは晴れ晴れとしているよ。明日、晴れるといいな。夏樹と一緒に釣りができますように。 ∴あした天気になあれ 榎菜子さん |