小説 | ナノ


年上である俺が転校して来て、初めは驚いていたクラスメイトだったが今ではすっかり同い年のクラスメイトのように接してくれている。
だが俺にとってそれは友達という分類の意識は全くなく、あくまで仕事の一部での生活だ。

正直、夏樹に友達いないだろと言われてから少なからず友達という単語に敏感になっている気がする。羨ましいとか、そういうんじゃないけど。


「山田くんって友達いないって本当なの?」


あの日に偶然聞いていたのか、あの時いたメンバーに聞いたのか目の前のクラスメイトの彼女は真っ直ぐな目で俺に問いかけてきた。


「それが?」


下校中に声をかけられて他愛のない話をしていたはずだ。それなのに、いきなりの話題転換。
ジリジリと照りつける日差しが眩しい。

友達がいないことがいけないことなんだろうか、と言う意味を含めて質問を質問で返した。

すると彼女はふうん、と意味深に俺を見る目を近づけてきた。


「なんか、少し嬉しいって思っちゃった。」

「…それは嫌味?」

「違うよ。」


こうじっと見られるのは何だか変な気分だ。それでも目を逸らさないのは何となくではないが説明がしづらい。


「山田くんの彼女になったら一人占めに出来るなぁって。」

「は?」

「だから、嬉しいなって言ったんだよ。」


彼女は一体何を…?一人占め?俺の彼女?だから嬉しい?

混乱してる俺をよそに彼女はまだ言葉を続けている。


「今はまだただのクラスメイトだけど、」

「ちょっと落ちつ、」

「私、山田くんの彼女になるために色々と頑張るから、よろしくね。」


彼女は俺の言葉を無視して話し続け、話し終えると何故か手を差し出してきた。
まだ目は、真っ直ぐと俺に向けられている。


「握手。」


いやいや、意味が分からない。
握手をする意味って何?それ以前に握手と言う前にすごいこと言ってなかったか。


「山田くん、握手。」


再度そう言った彼女の手に、いつの間にか自分の手を伸ばしていて、彼女の手に触れた瞬間自分のした行動に少し驚いた。


「アキラくん、私はあなたのことが好きです!」


彼女の初めてのアプローチは何ともストレートだった。
だが、その時にふんわりと揺れたショートカットの柔らかそうな髪や眩しいくらいの笑顔に俺は抱っこしていたタピオカを思わず落としそうになってしまった。


そして彼女が俺のことを初めて名前で呼んだのを理解したのはそれから十秒後のことだった。



∴ショートカットの似合うあの娘
立花ハナさん