小説 | ナノ


タピオカはあれ以来、どうにも「友達」を気にしているようだった。何かにつけてそれを口にするものだから今日は置いていこうかとさえ思ったくらいだ。結局そんなことは出来ずこの有様だが、これでは気分転換にもなりやしない。


「グワッ」
「タピオカ、俺は友達を作りに来たわけじゃないんだ。これが普通だろう」
「…グワ」
「だいたい、あの宇宙人と友達になってどうする」
「あ、こんにちはアキラくん。タピオカもこんにちは〜」
「グワッ!」
「だからタピオカ――…ああ、こんにちは」


ひたすらタピオカに向けていた視線を上げるとそこには見慣れたクラスメイトの少女の姿。心なしか、肌が夏休み前よりも黒くなった気がする。


「…焼けた?」
「わっ、やっぱり焼けてる?ちゃんと日焼け止め塗っとけばよかったなあ…」
「紫外線って、5月辺りが一番多いんじゃないっけ」
「あれそうだっけ?…そういえば、聞いたことがある気もする」
「………」
「…ど、どうしたの、アキラくん」
「いや、いいなと思って」
「いっ、いい?」
「海の女って感じがする」
「……褒めてる?それ」
「一応」
「ふうん」


そのまま目を細めると「酷いねぇ、アキラくんは」とタピオカに語りかけ、そのタピオカは他者からすれば普段と変わらない鳴き声を上げる。ただしアキラにはお見通し、「友達いないから」というような言葉を返す存在の名を少し怒気を込めて呼ぶと、次には呑気な声を出した(眼前の少女は不思議そうに首を傾げる)。


「どこか行くの?」
「…今日は別に」
「昨日は何かあったんだ」
「最近は釣りに行ってたけど、今日はただの気分転換。まあ、タピオカの散歩かな」
「私も食後の散歩。ゴロゴロするなら宿題でもしろって言われて、用もないのにでっちあげちゃった」
「へえ。何て?」
「海咲さんのとこ行ってくるーって」
「何しに行くの?」
「手伝い頼まれ――…って、アキラくん、聞いといて笑わないでよ」
「だってさ」


唇を尖らせたかと思えばすぐに崩れる表情。眩しい。それは彼女に当たる日差しが原因か、やけに輝いて見える。


「…あそこか」
「アキラくん?」
「俺も行こうかな、暇だし」
「じゃあ一緒に行こうか」
「うん」
「歩ちゃんいるかな?」


そう尋ねる顔も確かに笑っているけれど、あの輝きには敵いそうにもない。



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むじさん