欲しいのはひとつだけ


※中学生捏造
この頃既に女子苦手




















新年度が始まってからの最初の連休明けの雰囲気もどことなく薄れてきている、その次の週末も終わった週頭。
学校の創立記念日と被ったため、学校から部活動の一切を休息に充てるようにというお触れまで出た週末明けであったこともあり、部活は思った通りハードで、心地よい疲れの中笠松幸男は帰宅した。

「…ふぅ、」

シャワーもあがり夕食も済ませて自室のベッドに転がり、ぼんやりと天井を眺めていると部屋の扉がノックされ母親が顔をだす

「幸男、なまえちゃんがきたわよ」
「…、なまえ?」

隣近所に住むなまえはまだランドセルを背負う年で、彼もランドセルを背負っていた頃から彼によくなついて後をついて歩いていたし、彼自身も女子が苦手でありながらなまえは妹のように可愛がっていた。
彼が中学生になり部活を始めてからは、なかなか会う機会も減っていたため懐かしくなって、母親に二つ返事でそのまま部屋に通すように伝える。

「わあい、ゆきちゃん久しぶり!」

間もなくぱたぱたと階段を上がる音がして、ひょこりと顔を出した少女は笑顔で抱きついてきた。

「本当に、な。どうしたんだよ」
「なんとく、会いたいなぁって思ったから。ごめんね、部活で疲れてるよね」

押し掛けてきたくせにそう言って眉尻を下げて笑う。いつの間にこんなに、大人になったのか。

「で、ね?」

床に座ったなまえが見上げてくる。

「今日、私誕生日なんだ」
「あ、そうだっけか」

言われてカレンダーを見る。そういえばこの時期だったか。彼女の家が誕生日会なんかもやるような家ではなかったこともあり、申し訳ないが彼女の誕生日をきちんと覚えていない。

「だから、プレゼントください!」
「…はぁ!?」

前言撤回する。こいつはまだまだ小学生だった。
なんでこんな突然こんなことが言えるのか、子供だ。

「…なんにも用意してないぞ」
「うん、知ってる」

そう言ってにやり。

「欲しいものが、あります」

真面目な顔になって深呼吸をひとつ。何を要求されるかと身構えた。

「私、ゆきちゃんの名字が欲しい」

とんでもない爆弾を投げてきた。
ちょっと待て。名字ってつまり名字で、つまりそういうことか。そうなのか。
誰か嘘だと言ってくれ。遅れてやってきたエイプリルフールだと言ってくれ頼む。
いやまずこいつこんな冗談言えるほど頭の回転よかったか、なんて思考はまた別の方向に逃げ出す。

「ゆきちゃん女の子苦手なのに、私は平気でしょ。それって私を女の子として見てないってことじゃない?」

混乱する頭でなにも言えないでいると追い討ち。

「私、生理きてるしもう女だよ。ランドセル背負ってるうちは付き合ってなんて言わないけどさ、私は"笠松くん"のこと、ちゃんと好きだよ」

そう言う顔がほんのり赤い気がするのは気のせいだろうか。
それだけだから、と言って立ち上がり振り返らずに扉の前でぽつり。

「私はいつ、あなたの中で女の子になれる…?」

そのまま、来たときと同じようにぱたぱたと部屋を出て階段を下りていった。



欲しいのはひとつだけ
(ひゃぁぁぁ、言ってしまった…!)
(…明日から、どんな顔して会えっていうんだよ……)






以前某呟きサイトで笠松先輩と幼女っていいよねとフォロワーさんと盛り上がった結果がこれだよ。
私が誕生日なのをいいことに好き勝手しましたすみません。


*Special Thanks
梅野うめ さん


13.05.21 誤字、加筆修正



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