影ふたつ


※帝光時代で幼馴染み





「あ、征くん」

「なんだなまえか、どうした」

「今夜仕事で帰らないから征くんの家に泊まりなさいってお母さんが」

「…、まいったな」

「え?」

「実は今夜はうちも父が不在でね、」

「あ、そうなんだ…征くんのお父さん忙しい人なのは知ってたけど、こういうことってよくあるの?」

「まぁそれなりに、ね」

「初めて聞いた」

「初めて言ったからね。別に言いふらすようなことでもないだろう」

「そっか、」

「あぁ」

「………」

「で、」

「え、」

「夕飯、どうしようか」

「え、泊まっていいの…?」

「逆に聞くが、ここで断ったとしたらなまえはどうするんだ」

「どうって、大人しく自分の家か誰か友達に頼んでみるとか、」

「まず女子がひとりで夜を明かすなんて危険な真似を僕がさせるはずがないだろう」

「え、」

「どうせお互いひとりになるなら、一緒にいたほうが安心だろう?」

「ん、そう、だね」

「それでいい」「ん、ありがとう」

「じゃあ、帰るか」

「え、部活あるんじゃないの?」

「今日は体育館の設備点検で休みだ」

「そうなんだ」

「あぁ」

「じゃあ、帰りましょう」

「で、夕飯はなにがいいんだい?」

「征くんは?」

「僕か、じゃあ麦とろ」

「え、」

「うん?」

「ちょうどね、お母さんの実家から自然薯が送られてきていて、たくさんあるの」

「決まりだな」

「だね」

「麦ご飯でね」

「はいはい、ちゃんと皮を剥いたらすり鉢でおろしますよ」

「楽しみだな」

「任せてください」

「……こうして並んで帰るのも小学校卒業してからなかったな」

「征くん部活忙しいもんねぇ、キャプテン譲ってもらったんでしょう」

「あぁ。あ、手でも繋いでみるかい?」

「丁重にお断りします」

「つれないね」

「そういう征くんはたらしになったね」

「ははは、手厳しい」



影ふたつ
(きみと私から伸びた影)
(なんだかひどく懐かしい景色)



6月16日 麦とろの日
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