てるてるぼうずの恋


黒い雲が厚く空を覆い冷たい雨が降る。
放課後の下駄箱に、その空を恨めしそうに見上げる一人の少女がいた。


『雨が降るだなんて、言ってなかったじゃないの』


今日は一日とてもよいお天気になるでしょう、とにこやかに言っていた天気予報のお姉さんを信じていたのに。
おかげで折り畳み傘なんていうものもなく、あろうことか今日のカバンは新しいものなのに、これでは濡れて帰るしかないだろうか。


「すごい顔してますけど、」

『…っ』

「なにしてるんですか?」

『あ、黒子くん』


睨みつけていた空から視線を落として、声のほうへ振り返るとそこには、クラスメイトの男子生徒がいた。


『傘を持ってきていないので、どうやって帰ろうかと思案していたところです』

「僕の傘、お貸ししましょうか?」

『…その場合、黒子くんはどうやって帰るのですか?』

「僕は折り畳み傘がありますので」

『では、そちらの折り畳み傘のほうを貸していただけると嬉しいです』


黒い紳士物の傘を持ち上げてみせる彼を見て、ちょっと考えて、返ってきた答えに少しだけ、甘えてみる。
女性である私に紳士物の傘は大きすぎるし、運動部としては少しばかり小柄ではあるもののごく一般の男子高校生の体格とさほど変わらないであろう彼に、折り畳み傘は小さいだろう。


「かばん、せっかく新しいのに濡れてしまいますよ」

『……え?』

「僕は構いませんからそちらを使ってください」


そう言うと私の手に自分が握っていた傘をしっかりと握らせて、驚く私をよそに、自分は折り畳み傘を広げてさっさと土砂降りの外に消えて行った。


「気付いて、くれた…?」


その日の気分でいくつかのかばんを使い分けている私のかばんが新しいものであったことなんて、親しくしている友人たちにだって気付いてもらえなかったのに。

なんとなく温かい気持ちに包まれて、握らされた黒い傘を開いた。
いつも使っている傘よりも太い持ち手に、片手で支えるには不安が残るような重みを感じで、開いた傘の中で持ち手をそっと胸に寄せた。
あまり話す機会もなく、なんとなく女々しいような、正直そんなイメージをしていた。


(…あぁ…男の人、なんだなぁ……)

そんな失礼なことを考えた。
そういえば、身長だってそこまで大きい印象ではなかったのに、ずっと見上げて話していたような気がする。きっと頭1つ分は違うのだろう。
そう考えていたら、なんだかものすごく恥ずかしくなってきてしまって。


(あぁぁ…、これは、もう…早く帰りましょう…)


不意討ちのように突然感じた異性に、足は自然と早いリズムで動きだし、顔もなんだか熱い気がする。
明日きちんと、傘のお礼を言おう。



てるてるぼうずの恋
(明日は雨上がりの空と)
(その空の下で笑うあなたに会いたい、なんて)






ぴゃぁぁあああああ
恥ずかしいなにこれ恥ずかしい
なんでだろう傘押し付けただけなのにすっごい恥ずかしい

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