たまにはワガママを1つ

昼休みの屋上庭園。空は青く晴れ渡り、風が優しく頬を撫でる。
花壇の脇に置かれたベンチで、ふたり並んでのんびりと空を眺める。

「あ、そうだ誉先輩、これ、もらってください!」

お弁当を食べ終えてからなかなかタイミングが掴めずに、まるで忘れていたようになってしまったが、そう言って白い紙袋を差し出した。

「え、僕に?」

誉先輩は少しだけ目を丸くして小首を傾げてなまえを見下ろす。

「はい、お誕生日今日だと伺ったので。たいしたものではないんですけど…」
「わぁ、ありがとうみょうじさん。あけてみてもいいかな?」
「ええっと、あの…ちょっと恥ずかしいので……開けるのは寮の部屋で、お願いできませんか?」

返事を聞くと、先輩ちょっとだけ考えるように動きを止めてから、わかったよ、と柔らかく笑う。

また、そうやって笑う。好きだなぁなんて思いながら、なんとなく心苦しくなる。

「その代わり、と言ってはあれですが、なにかして欲しいこと、ないですか?」

ベンチから立ち上がり、くるりと回って手を広げてみせる。

「なんでも言ってください!」
「…、なんでもいいの?」

そう尋ねてきた誉先輩は、少しだけ真面目な顔をしていて、こちらも少し身構えるけれど、はいと笑顔を向けた。

「じゃあ、少しだけお昼寝したい、かな」
「お昼寝、ですか?」

返ってきた答えに肩透かしを食らったような気がするのはきっと気のせいではない。

「えっと、じゃあどうしましょう…」

屋上庭園では横になれるような場所はないし、ゆっくり横になれるだろう保健室に行くのも気が引ける。

「みょうじさん、ここ」

どうしたものかとあれこれ考えていると、先輩がぽんぽんとベンチを叩く。

「え?」
「ここに座ってくれないかな?」
なんだろう、と思いながらも示された場所にすとんと腰かける。
すると目の前を落ちていく水色、少し遅れて感じる膝の重み。

「えっ、え、あの、先輩…?」

それは所謂、膝枕というものであった。

「なんでも聞いてくれるのでしょう?だったらしばらくこのままで、ね?」

なんて言われて見上げられたら、なまえに断ることなんてできない。

「…、もう」

そう言って小さく抗議してはみたものの、所詮は拒否権なんて持たないのだ。

小さく寝息を立て始めた先輩の髪に手を入れるとふんわりと柔らかかった。起こさないように、優しく撫でる。
好きだなぁ、と思った。
あまり人に弱さを見せないこの先輩がこうして膝の上で眠っているということは、それだけ信頼してもらえていると思ってよいのだろうか。

そんなことを頭の片隅に追いやって、今はただこの幸せな重みに浸ることにした。



たまにはワガママを1つ
(箱の中のマグカップと添えた手紙に気付くまで)
(あと、どれだけ時間がありますか?)




2013.05.14.
金久保誉誕生日記念
環さん書けなくてすみません

初出:雪月華
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