女バス夢子
幼馴染くさい
突然振り出した雨に大慌てで外周から戻って、片手で足りてしまう数しかいない部員たちを連れて飛び込んだ第2体育館では男子バスケ部が練習していた。
いつも女子バスケ部が女子バレー部と合同で使っている第3体育館は今日は補修工事で使えないこと、外周と軽いストレッチで切り上げる予定のはずだったこと。事情を話せば武内監督も快く場所を提供してくれた。
「さぁさぁ、場所も提供してもらえたんだから基礎練とストレッチ終わったら撤収するわよ!」
女子部員たちに声をかけて近くに置いていたドリンクボトルに口をつけた。瞬間。
鼻へと抜ける炭酸。その気持ち悪さとその刺激によって突然襲ってきためまいに、真夏の外周から雨に打たれた身体は力を失っていった。
誰だ、練習中のドリンクに炭酸なんて選んだ阿呆は。そんな悪態を心の中でついてひんやりとした床に頬がつく感覚に目を閉じた。
*****
別に見ていたわけじゃない。部員にかける声がいつもの声とは少しだけ違う気がしたから視線を向けただけ。
その視線の先で突然倒れたあいつはそのまま動かなくて、この暑さの中の外周の帰りだったから、すぐに熱中症だと思った。
傍らに置いていたクーラーボックスから氷嚢を掴んで駆け寄って、周りへの声かけもそこそこにみょうじを抱えて体育館を飛び出した。
冷房の効いた保健室のベッドに横にして、首元には持ってきた氷嚢を当てて、ただひたすら、見ていた。
いつも隣を歩いていた身体はこんなにも小さかったのかとか、まつげ長いなとか、そんなくだらないことを考えながら30分ほど。
呼吸も少し落ち着いてきて、なんだか心地よさそうに眠っている。
「心配させやがって、このやろう」
なんてことない独り言。
「ごめんね」
の、はずだった。
「おまっ 起きてたのか…!」
「いまおきたの」
それよりさぁ、なんて起き上がって零された言葉に固まる。
「わたし、けがしてなあい?」
あーんと口をあけて、少しだけ舌を出して、これはなんの拷問だ。
何も言えずに固まっていたら、ふらりとベッドに倒れてそのまままた寝息を立て始めた。
いったい、なんだったんだ。
悔しくなって、うっすら開かれたままの唇に自分のそれで触れてみたけれど、恥ずかしさだけが残って悪態をついて右手で口元を覆った。
けがしてないか、なんて。口の中がちくちくして痛いのは、こっちのほうだ。馬鹿やろう。