全てはあの男のせい(灯里様/恋部隊) 机の上に乗った大量の書類と格闘するキクチの機嫌はすこぶる悪かった。あからさまに不機嫌オーラが漂っているし、あまりの迫力に誰も彼女に声を掛けることが出来ない。 そう、全てあの男が悪いのだ。いつも適当なくせして試験の時だけ本気を出したというあの男が。考えれば考えるほどイライラして来て、右手に持ったペンに力を込める。 「あ……」 その瞬間、力を入れすぎたのか、派手な音を立てて持っていたペンが真っ二つに折れた。何だかもう全部が嫌になってくる。折れたペンをゴミ箱に放り込み、新しいペンを手に取った。 そこに今一番聞きたくない、底抜けに明るい声が響く。 「キクチちゃん。そんなに不機嫌オーラ出してどうしたの?」 ねー、と首を傾げているのは二十代前半ほどの男だった。青空を思わせる青い瞳。薄い金の髪を後ろで適当に括り、背中に流している。 ボタンをきっちりとめているキクチとは違い、上着は適当に羽織っているだけだし、シャツのボタンは第二ボタンまで全開だ。服装から見ても彼がどれほど適当な人間か分かるだろう。 「それは全て貴方のせいです。私の精神安定上の理由から、今直ぐに私の前から消えてください。三秒以内にです」 こめかみに青筋を浮き立たせながらキクチは目の前の男――ザウスをにらみつけた。 この男が普段からまじめで、きちんとした人物であるなら、キクチがここまで目の敵にすることはなかっただろう。 約一年前、配属される部隊を決定する試験でキクチはザウスに僅か一点及ばなかった。 そのせいで憧れのラルク隊長の部隊に入れず、第二部隊に配属されたのだった。 「え〜、キクチちゃんってボクに冷たいよね。でもそんなキクチちゃんも可愛いよ♪」 「寝言は寝て言ってください。早くしないとあのペンのように真っ二つに折りますよ?」 キクチはそう言って無残に折れたペンを指差すが、ザウスはどうやら冗談と受け取ったらしい。へらりと笑ってキクチの机に肘をつく。 「はははは。キクチちゃんって面白いね〜」 「冗談ではありません。私はすこぶる本気です。いいですね。絶対について来ないでください。ついて来たら貴方とは一切喋りませんから。では」 らちが明かない。そう判断したキクチは、勢いよく机を叩いて立ち上がるとザウスを睨み付け、その場を後にした。 ぽかんとするザウス一人を残して。 End |