■ 泣き虫シンドローム

 ぽろぽろとこぼれていく、これは本当の涙なんだろうか。

 目の縁から伝う粒を拭いながら、柳生が仁王の頬にキスをする。

「ねぇ、仁王くん」

 手を繋ぐと、抱きしめられると、キスされると、途端に涙があふれだす。
 仁王は昔から必要以上に体に触れられると涙が止まらなくなる、ということがよくあった。その体質のせいで仁王は他人と距離をおくようになった。急に泣き出して相手の気分を悪くしてしまってはいけないし、何より今は人前で泣くことに抵抗を覚える年頃だ。自身の体質も公言するのははばかられた。


「泣かないでください、仁王くん」

 柳生の声がゆるく鼓膜の上を撫でていく。もうこのまま、ずっと抱きしめてほしい。
 名前を呼んで、涙でぐちゃぐちゃになった顔を何度もぬぐってくれる。仁王はなにも言わないのに、柳生は何も聞かない。

 頼むからもう触れないでいてほしい。泣いてしまう。止まらない。

 悲しいんじゃない、触れられたら体が震えだして止まらなくなるのだ。理由なんてわからない。
 好きなのに、触れたいのに体が拒否反応を起こして、どうしようもなくなる。柳生の手のひらは優しい。その優しさが仁王には苦しいのだ。

「なかないで」

 どうして柳生まで泣きそうになっているのだろう、仁王は滲む視界の中心でをじっと見つめる。

「好きやのに、なんでとまらんの」

 きっと柳生は本当に"悲しい"だろうに。

「ごめん、柳生」


最後まで涙は止まらなかった。



End.
title by 輝く空に向日葵の愛を


幼い頃に虐待を受けた後遺症という設定でした。
分かりにくくてすいません…

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