■ 私はここに居るから、

 疲れてソファで眠り込んでいる跡部に毛布をかけながら、ゆっくりと忍足は浅いため息を吐き出す。
 未だ大騒ぎの余韻の残る部室には壁の所々にテープをはったあとがあったりクラッカーの残骸が落ちていたりする。本当に、誕生日会をやる分には構わないが後片付けの爪が甘すぎるんじゃないだろうか。目に付くところだけ最低限の掃除し直した忍足は机の上に山積みにされた手紙の山に目をやる。それは主に女子からの誕生日プレゼントに添えてあったものだが、きっと跡部のことだからすべてに目を通すのだろうな、と考えたところでちょっとした嫉妬心が芽生える。忍足も一応用意したのだが、渡す前に本人が寝てしまって完全にタイミングを逃してしまった。だからこうして跡部が起きるのを待っているのだが。もちろん起こすなんて野暮な真似はしない。すやすやと無防備に寝入る跡部の寝顔を拝むのもなかなか体験できないイベントである。今の内に堪能しておくほうが忍足にとっては有意義といえるだろう。
「それにしてもおきへんなぁ……まぁあんなもみくちゃにされたらしゃーないか」
 今年の誕生日会は氷帝では最後のものだから、と事前に綿密に計画し完全にサプライズとして水面下で計画が進行していた。皆の尽力のおかげでこの計画も見事成功の運びとなった。

「けーいちゃん、」

 もうすぐで下校時刻だ。流石に起きてもらわないと困る。忍足が跡部の頬をふにふにとつつけば跡部の唇からかすかに声が漏れた。しかしまだ意識が覚醒しきらないのか、瞼はかたく閉ざされたままだ。
「はよおきなちゅーしてまうでー」
 そう言って忍足が耳に緩く息を吹きかければ流石に身の危険を感じたのか跡部の瞼がゆっくりとあがった。内心あっさりと起きてしまったのがなんとなくつまらなかったのだが、起こしてしまったものはしょうがないので時計を指さしながら時間やで、と帰宅の準備を跡部に促す。
「おまえ、……ずっとまってたのか?」
「カレシがカノジョのことおいていくはずないやん。しっかり可愛い寝顔はおがませてもらったで」
 跡部は一瞬しまった、という顔をしたがすぐに身なりと髪型を整えてさっさと帰宅準備をし始める。大量のプレゼントと手紙は紙袋につめて、跡部が持ちきれない分は忍足がもってやる。今の時点でこれだけあるのに自宅にも送られてくるというのだから大財閥の息子も大変やなぁ、とひとり感心してしまう。
「 これ全部もってかえんの?」
「車につめるから心配ねーぜ?今日はこんなこともあろうかといつもより大きめの車で迎えにくるよう頼んであるからな」
 部室の鍵をしめて、もう誰もいなくなった廊下を二人で歩く。紙袋のこすれあう音が気に食わないが、口に出すことはしなかった。

「なぁ景ちゃん」
「なんだ?」
「俺が景ちゃんにプレゼント渡しても、それはこの紙袋の中のやつと扱いは同じやん?それに嫉妬すんのってなんかガキっぽいなぁて思うねんけど、それでもどうしてもそれが気に食わんのや」

 跡部は一瞬驚いた顔をして、次の瞬間には両手に提げていた紙袋を離して忍足に抱きついてきた。
 廊下にプレゼントが散乱するが、そんなことは気にもとめていない様子だった。

「ちょっ…景ちゃん?」
「俺の側にずっといろ。それがおまえからのプレゼントじゃねーの?」

 そう言って微笑む跡部がどうしようもなく愛しくなって、忍足も跡部を抱きしめ返した。(もっていた紙袋はちゃんと床においた。)
 ポケットに忍ばせていたプレゼントはもう次の機会に渡そうと思った。その方がなんとなくロマンチックな気がしたからだ。


「生まれてきてくれて、ほんまありがとう」



 散乱したプレゼントを片づける作業に時間を割いたのはいうまでもないが、榊監督にバレてしかられたのは忍足だけ、という理不尽さをこの後忍足は味わう結果となった。



End.
title by 輝く空に向日葵の愛を
2013/11/21

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