■ 隠し切れない思いを込めて

「結局付き合うんだってよ、赤也と」

 珍しく部室には丸井と柳生の二人しかいなくて、何気ない丸井の一言に柳生はただそうですか、と言葉をもらす。
 仁王がずっと赤也のことを好きだっていうのは結構前から知ってて、まあ本人はばれてないつもりだったみたいだけれど。恋してるやつっていうのは大体勘でわかる。雰囲気とか、そんなんで。
 で、仁王が告白して、赤也がオッケーして。晴れてカップルが誕生したというわけだ。
「おまえ、これでよかったのかよ」
「丸井君も人のことを言えないでしょう」
「まあ、そうだけど」
 丸井と柳生は仁王のことが好きだった。いや、今も好きだ。その事実を知ったのは皮肉なことに仁王が赤也とできたっていうことを報告したほんの数日前のことで。はにかみながら仁王がそう告げた瞬間、ふいをつかれて泣き出しそうになったのを堪えた丸井が目をそらした先。柳生もまったくおんなじような顔をし
ていたから。ああ、おまえもかって。そこで気付いた。
「おまえは言わねえの?」
「あんなに幸せそうにしている仁王君を、困らせたくはありません」
「なあヒロシ」
「なんですか」
「キスしていい?」

 自分でも何を言っているのかよくわからなかった。ただ無性に、キスをしたくなったのだ。それ以外に理由なんてない。
「かまいませんよ。減るものでもありませんから」
 丸井が本当にいいのか?と柳生の顔を引き寄せながら言う。ええ、と言って柳生が唇を押しつけてきた。
 そこでふっとこみあげてくるものがあって、気がついたら涙が出ていて。泣くもんかって思っていた気持ちのたがが外れてもうどうしようもなくなった。柳生とキスしながら、仁王のことしか考えられなくて、涙があふれる。
 柳生も泣いていた。眼鏡のレンズに、ぽたぽたと滴が垂れる。
「好きなのに。好きだったのに」
 こんなことでしか気持ちを満たせない二人は、ただひたすら唇をむさぼりあった。



End.
title by 輝く空に向日葵の愛を
2013/1/26

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