■ ああもう、知らないからね!

 真田がかまってくれない。幸村がいくらかまってオーラを出しても少しも気付いてくれない。さりげなく手を差し出しても、ジャージの裾を引っ張っても、かまうどころか気付きもしない。そんな超鈍感野郎にいい加減しびれを切らしてきた幸村はテニスボールに軽く不満をこめて壁にぶつけてみる。しかし軽くやったつもりが壁に5センチほどの穴があいてしまい、思わず隣にいた柳から顔をそらしてしまう。幸村は先日ロッカーを破壊して柳に叱られたばかりなのだ。
「精市、」
「……ごめんなさい」
「今月で4回目だ」
「はい」
「……弦一郎が原因か?」
「う。まぁ、そんなところかな」
 柳はやれやれとばかりに溜め息を吐き、そんなに相手をしてほしいのなら口で言えばいいだろう、と言いながら絶妙のタイミングで部室に入ってきた真田にちらりと視線をやる。
「何事も受け身ばかりではいけない。そうだろう精市?」
 弦一郎は奥手だからな、はっきり言ってやらないといけないぞ。柳はそれだけ言い残してさっさと部室から出ていってしまう。他の部員たちは既にいなくなって今は真田と二人きりだ。
「ねぇ真田」
「む?なんだ?」
「ちょっとこっちきてよ」
 幸村は手を小さくこまねきして真田を呼び寄せる。そして真田のジャージの襟元を両手で掴みながらぐいっとこちらに引き寄せた。
「なっ…どうしたのだ幸村!」
「もっと俺のことかまえよ!」
 額をこつんと合わせてそれだけ言って、幸村はもう恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだっ た。一方真田は呆気にとられたような顔になってすぐに渋面になった。真田は半泣きの幸村をそのまま抱き締めて目尻にたまった涙を拭ってやる。
「真田のばか、もう知らない……」
 真田の胸に顔を埋めて、幸村はジャージの裾を思い切り握った。真田はその手をそっと握って幸村に顔をあげるようやんわりと誘導する。
「幸村、」
「……なんだよ」
 ふいに額にキスを落とされる。次に頬に、そして瞼に。 最後に口元に口付けられて、耳元で小さく魔法の言葉が囁かれる。そこで幸村はやっと笑みをこぼして、もう一度キスをし
た。

「俺も真田のことが好き」

 扉越しに柳が微笑んだ。



End.
title by 輝く空に向日葵の愛を
2014/1/26

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