■ どうか全てを奪ってよ

 四天宝寺の千歳と白石は付き合っているらしいけれど、キスするときとか大変なんじゃないかとブン太はよく思う。大体15センチ程差があれば必然的に千歳がしゃがむか白石が背伸びをしなければならない。まあそれはそれでバリエーションというか、キスの方法も増えるわけでそれはそれでいいのかもしれない。
 ブン太と仁王はというと、お互い立ったままで、ブン太が少し顔をあげるだけですぐにキスができる。見上げて首が痛くなる角度でもない。身長差でいうと、キスすることにおいてはかなり相性がいいのだ。長い間唇を合わせていても疲れるということはあまりない。
 ブン太は体と体をぴたりとくっつけるのが好きで、大体の場合は仁王の腰に腕を回す。仁王はもっぱらブン太の後頭部か、あとは頬に手を添えることが多い。でもそれだと体が離れてしまうので、結局は後ろにまわるのだ。
 ブン太はキスの最中は絶対に目を閉じるようにしている。ふと開いた瞬間に目が合いでもしたら恥ずかしくてそれどころではなくなるし、狼狽える姿を仁王に見られるのは嫌だ。だからキスのときに仁王がどんな顔をしているのかブン太は一切知らない。知りたいという好奇心はあるけれど、やはり目をあけることは躊躇われた。

 幸村と仁王の会話を偶然聞いてしまったのはとある日の昼休みのことだった。
 たまたま通りかかった教室で二人が話していたのだ。
「仁王ってブン太とキスするとき目あけてる?」
 その幸村の一言が聞こえて、ブン太は思わず立ち止まった。もちろん仁王の答えが気になったからだ。
「俺は絶対あけとうよ」
「へえ、なんでなの?みんな大体閉じるっていうし」
「ブンちゃんキスするときいっつもぎゅうって目とじてかわいいんよ。顔まっかやし」
「それ本人に絶対言わない方がいいよ?絶対いやがるだろうから」
「いわれんでもわかっとうよ。キス待ちの顔も好きやけど、ブンちゃんのキスするときの顔はほんにそそられるき」
 それを聞いた瞬間、自分の顔が真っ赤に火照っていくのがわかった。恥ずかしいなんてもんじゃない。仁王がいつもそんなことを思ってたなんて。


 その日の部活終わり。今日は仁王が日誌の当番だったのでブン太は雑誌を読みながら時間を潰していた。
「ブンちゃんかーえろ」
 日誌を書き終わったらしい仁王がブン太の後ろから抱きついてきた。いつもならここでキスをする場面なのだが、今日は違った。昼休みに聞いてしまったあの会話を思い出してしまったのだ。
「仁王」
「ん、なんじゃ?」
「目、つむれ」
 そういうと仁王がぽかんとした表情になって首を傾げた。
「なんで?」
「いーから!目つむれって!」
 仁王が目を閉じたのを確認してから、ブン太はいつも通りに唇をそっと合わせる。恥ずかしいけれど、目をあけたままで。ブン太の言葉通り、仁王は目を閉じたままだった。
「へんなブンちゃん」
 仁王がにやにやしているのがなんだか気に食わなくて、ブン太はそっぽを向く。
「幸村とはなしとったんきいたんやろ?」
「!」
「ブンちゃんの考えてることはお見通しやき」
 そう言って仁王が腰を引き寄せて、またキスをする。今度はばっちり目をあけたままで、ブン太はなんとか仁王と目を合わせようとするのだけれど結局恥ずかしくて目を閉じてしまう。
「俺がブンちゃんのかわいい顔独り占めするだけやき、はずかしがらんで、な?」
 かろうじてうっすらと目を開けると、仁王がいとしそうにこちらを見つめているのが見えた。
 ブン太はどうしようもなく幸せな気持ちになって、最後には仁王を思い切り抱きしめた。



End.
2014/4/10
title by ネイビー

[ prev / next ]
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -