■ もうだめだ、息も出来なくなりそうだ

 開け放たれた窓から吹き込む風が机上のプリントの束を翻して、幸村の視線は飛ばされた数枚のプリントに移る。重石にしていた筆箱が僅かにずれて上の方の何枚かが辺りに散らばったようだった。

「部活始まるき、はよう着替えんしゃい」

 プリントを拾い集めようと幸村が席を立ったと同時に扉の側に立っている仁王と目が合った。
 真田か柳に使いっ走りにされたのだろう、ジャージ姿の仁王は面倒くさそうに頭を掻いた。
「もうそんな時間か」
「細かい指示はおまえさんがおらんと困るけんのう」
「もう少し待ってくれないかな、きりのいいところまで終わらせたいんだ」

 提出期限は迫っているしできるだけはやく終わらせてしまいたいというのが本音だが、だからと言って部活を蔑ろにするわけにはいかない。

「ちゅーかなんのプリント、それ?」
「委員会の資料だよ」
「ふーん」

 仁王は練習に戻る気はないらしく入り口に近い机の上に腰掛けて足をぶらぶらとさせていた。
「はやく戻らないと真田にどやされるよ」
「別にかまわんき」

 プリントの束を軽く整えてクリップでとめる。残りは自宅に持ち帰ってやることにして、はやいところ練習に行かなくてはならない。

「おわった?」
「おわったよ」

 幸村が荷物をまとめて立ち上がろうとしたとき、ふいに視界を遮られる。
「?」
「のう幸村、俺とええことしてからいかん?」

 仁王の手が幸村の腰に回って、誘うような視線が欲を煽る。

「……ふふ…少しだけだよ?」

 唇を合わせて、一瞬視界が天井をうつしてそのまま仁王に染まる。机に背中をあずける体勢で唇を貪り合った。折角まとめたプリントが床に落ちたけれどそんなことはもうどうでもよくて、ただただ仁王を求めるばかり。

「……っ、もぅ、終わり!」
「なんじゃ、つまらんのぅ」
「練習、行くんでしょ」

 もう一度唇を押し付けて、幸村は仁王をそっと突き放す。

「……あとで、するから」
「…約束じゃよ?」

 ほんのりと赤みがさした頬を見られるのが癪で、幸村はそのまま小走りで部室に向かった。



End.
title by 輝く空に向日葵の愛を

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