■ 次第に染まる俺の心は

 妙に柳生が優しいときは特に注意しなければならない。柳生は表では紳士を装っているが中身はただの狼だ。気を許したその時点でジ、エンド。

「仁王くん、こちらへ」
「いやじゃ」
「どうしてですか?何もしませんよ?」

 口元では笑みを浮かべているが柳生の視線は捕食者のそれだ。ペテン師を名乗るだけあって仁王も人間観察は人並み以上にはしている。さらに言えば柳生ついては本人でも知らないようなことまで知っている。それ故に柳生が似非紳士であることは既に証明済みであるし、性癖が目を覆いたくなるほどに変態的なのは火を見るより明らかだ。それに付き合わされる仁王としてはたまったものではないし、出来ることなら事前に避けられるものは避けておきたい。
 だからこうして今も安い誘い文句に乗らず懐疑心全開の訝しげな目で柳生を見つめているのだ。勿論一定の距離を保って。

「仁王くんは相変わらずこわがりさんですね」
「どうとでもいいんしゃい」
「仁王くんが嫌とおっしゃるならこちらから行くまでですよ」
 身体が反射的に後ろへと後ずさるが、紳士の動きは思いの外はやい。あっというまに腕をとられ、逃げ道をふさがれてしまう。

「私がいないと何もできないでしょう?」
「そんなこと……」
「今から、そうなるんですよ」

 背中を嫌な汗が伝っていく。眼鏡の奥で光る視線はやはり紳士のそれではない。
 逃げ場のない今の状況に仁王はもはや溜め息を吐くことしか出来ず、次の瞬間には天井が見えた。

「好きですよ、仁王くん」
 こんな変態を好きになってしまったが最後。
 結局拒みきれないのが仁王の敗因なのだろう。



End.
title by 輝く空に向日葵の愛を

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