■ phantom pain 1

 音がするわけでもないのに、傷が疼く感じがする。

 一度、男に強姦されたことがある。未だに夢に見るあれは、今でもブン太の心を蝕んでいる。

「……っ、」

 まただ。顔もわからない男がブン太の中で果てた瞬間に目が覚める。身体中から吹き出した汗。肌にはりついたシャツが気持ち悪い。
 生々しく残っている感覚が恨めしい。中の皮膚が裂けていく痛みと、とめどなくあふれていく涙。叫んでも届かない声。痛い、いたい。

「ブンちゃん、どしたん?」

 ふっと、声が鼓膜の上を撫でた。仁王の声だ。
 思い出したくもない悪夢を頭から振り払って、ブン太は顔をあげた。
「なんもねぇよ?ちょっと考えごとしてただけ」
 ばればれの嘘を吐いても、仁王はなにも言わない。
「そーか」
 そう言って、手をそっと握ってくれる。その手のひらがあたたかくて、思わず泣きそうになる。

「なあ仁王」
「なんじゃ?」
「仁王は俺のこと好き?」
「好きじゃよ」
「俺のこと、嫌いになったりしないよな」
「おん」
「今から言う話、誰にも話さないって、約束できる?」
「……おん」

 握りしめたこぶしが震える。仁王はもう一度、手を握ってくれた。


 夢の話をした。仁王ならきっとブン太を軽蔑することなく聞いてくれるだろうと、信じたかった。嫌われてしまうかもしれないという恐怖が背中を撫で上げて、それでもブン太は話すことを決心してゆっくりと話しはじめる。忘れられない、あの夏の日のことを。





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