平和になった世界で暮らしてます | ナノ


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「聞いたかい? 今王都は凄いらしいよ」
「ああ。隣国の王達も集めて盛大に執り行うとか……」

 今日も今日とて、用心棒らしく村人の外出に付き合う俺の耳に、今日何度目かの噂話が入って来る。


「とうとう勇者様が見つかったんだって!!」
「あの災厄の日以来、姿を消した幻の勇者……本当に居たんだな」


 そう、王都ローレンで災厄の元凶バステカを倒した勇者様を祀る祭事が行われるとか。
 実は神様なんじゃとまで言われた幻の勇者様が、五年の時を経て見つかったと世界中に大混乱が起きていた。





「アルフは行かないの?」
「行かねぇよ。大体留守の間に魔物が入り込んでも嫌だろ」

 それもそうねと村娘が頷く。そして大きな野菜が入った袋を担いで牛車に乗せ、自身もそれに乗り込む。

「それじゃあ留守の間、村をよろしくね」
「おう」

 村人達が、一斉に馬や牛を出した。皆、王都で行われる祭事に参加するらしい。勇者様の計らいで、誰でも気軽に参加出来る祭事になったとか。それを聞いた村人達は、一目でいいから世界を救った救世主の顔を見たいと、じいさんばあさんまでもが王都に行くことにしたらしい。お蔭で村はすっからかん。マジで魔物が入ったら一溜りもないだろ。


(まあでも、それ程までに皆、勇者様が見たいんだな)


 勇者の顔を知る者は居ないとされる程、幻の存在となっていた勇者。だがどうして勇者がバステカを倒したのか知っているのは、その勇者に仲間がいたからだ。突然起こった世界の変化に戸惑う民の前で、その仲間たちが告げた。


『世界は勇者によって救われた』


 それだけを言い残し、その仲間達もすぐに姿を消した。だがそれも虚言なのではと疑う民を信じ込ませたのは、運よくバステカの城にて生き残った魔術師が見たある光景だった。それはその魔術師によって映し出された目で見た記憶で、それを王都で映し出したのだ。
 そこに映っていたのは、燃え盛る城の中でバステカの生首を片手に持った青年の姿だった。影で顔こそはハッキリ映らないものの、魔王の血で濡れた銀の髪と剣、そして燃え盛る炎の中で光る漆黒の瞳は、見るものすべてを惹き付けた。それは魔術師の意識が途切れる直前に見た光景らしく、次に魔術師が目覚めた時には、災厄は終わっていたそうだ。そして、その魔術師の映像と、勇者の仲間であった者達の発言により、皆の中に勇者と言う存在が誕生したのだ。
 だが、災厄の日以降、勇者がその姿を見せることは一度もなかった。各国協力して勇者、またはその仲間達を捜索したが、仲間達が姿を見せたのはほんの一瞬、勇者の姿も映像でしか見ていない為、捜索は難航した。そして、時間だけが過ぎて行き、いつしか勇者とその一行は人々の間で幻と言われる様にまでなった。

「なのに、まだ捜してたとはね」

 何でも今回勇者を見つけ出したのは、王都ローレンの皇帝陛下であるセオドア陛下らしい。前皇帝陛下が災厄の時に病で亡くなり、彼は若くして皇帝の座についた。そんな彼が軍の遠征先で見つけたのが、件の勇者様だったそうな。銀の髪を靡かせ、剣を振るうその姿が、在りし日に見た映像の中の青年と重なったとか。まあ、確かにこの世界で銀髪って珍しいしな。

「でも、だからって何であんな話になるんだ?」

 その勇者様は大変見目麗しいらしく、皇帝陛下が一目惚れに近い感情を抱いていると噂されている。もしかしたらそのまま、結婚するんじゃないかとまで。いくら世界が平和で寛容だからと言って、急に皇帝陛下が男と結婚しますと言われて、国民は納得するのか?
 ま、相手が勇者様なら皆なんでも許しそうだな。うん。


「――!」


 ドシンッ!
 突如大きな足音が村に響く。響き具合からして結構大きい。どうやら俺の予想は当たったらしいな。まさか本当に魔物が来るとはね。しかも最近じゃ滅多に見ない強力な魔物が。この前山に行った時に足跡があったから、近くに居るとは思ってたけど、警戒しといて正解だったわ。


「勇者様のパレード、行かなくて良かったわ」


 祭事より、こっちの方が断然楽しい。無意識の内に笑みが零れた。
 さて、魔物退治と行きますか。剣を抜き、俺は足音のする方向へ走っていく。
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bkm