2
魔王バステカが倒されたと言うのは、瞬く間に広がった。それもその筈、謎の病は突如その脅威を失い、空を覆っていた赤黒い雲は退き、ヤツらの力で燃え広がっていた消えない炎が消え、大地が芽吹き出したのだから。そして、今ではこの通り、まるで災厄などなかったかのように、皆笑顔で暮らしている。
「アルフー。山に行くから護衛してくれー」
「はいよー」
先程貰ったパンを齧りながら空を仰いでいた俺を、今度は別の村人が呼ぶ。いくら災厄が終わろうとも、化け物――そう、魔王が産み出した魔物だけはこの世界から消えてはいない。ただ魔王が従えていたような強力な魔物じゃなく、本当に雑魚の雑魚だけが世界に残った。まあそれでも人間に害をなす魔物も居る訳で、この俺が、アルフ・ヴィクターが村の用心棒として護衛につく訳だ。
何と言っても此処は若い男が少ない。皆災厄の時、王都に召集されて戦に身を投じたからな。生き残ったヤツらも居るが、そのまま王都の兵として王都に残ってしまったらしい。まあ、此処での暮らしと比べると、王都暮らしは相当楽なんだろう。あそこは、王都・ローレンは万能な魔術師が多いからな。水や火と言った、生活に必要な物もすぐに産み出せるだろう。
それでも俺は、この村の方が緑豊かで過ごしやすいと思うけどな。そんな事を思いながら、高く積まれた藁から飛び降りた。
「よっと」
「相変わらず身軽だなぁ。俺にもそれくらいの若さがあればなー」
「ははっ。じいさんが何言ってんだ」
服に付いた藁を払っていると、じいさんがジッと俺の手元を見る。釣られて見ると、俺の手に握られている剣を見ていた。
「どした?」
「いやー、いつ見ても立派な剣だと思ってな」
「あーこれね」
じいさんに言われた剣を肩に担ぎながら、俺はニッと歯を見せて笑う。
「――俺の宝物なんだ」
俺の、大事な大事な形見だから。