平和になった世界で暮らしてます | ナノ


1


 炎が消え、辺りが白い煙に包まれる中、俺は片っ端から今にも崩れそうな家の中を捜索し始めた。隊長さんも自分のするべき事を理解したのか、俺が捜索を始めるのと同時に、俺とは違う方向を捜索してくれた。意外だったのは魔王の息子だ。コイツも何故か村人の捜索を手伝ってくれた。勝手について来たのも含め、よく分からない。それも、勇者の為なんかね。
 だが三人で捜したところで、俺が望む村人達の姿は一向に見つからなかった。

「居ない。何処にも」
「どう言うことだ。人っ子一人見当たらないなんて、有り得ない」

 隊長さんの言う通りだ。考えたくもないが、もし盗賊達が村人の命を奪ったのなら、そこには死体が転がっている筈だ。だが辺りにはその痕跡がない。何もないんだ。そうなると、売る為に連れ去ったと考えた方が状況と結びつくが、全員を連れ去るには相当なリスクがいる筈だ。第一級の盗賊団ともなれば、まずそんな危険は冒さないだろう。
 ただ、それはあくまで魔術を使う者が居ない時の話だ。今回は確実に魔術を使う者が居た筈だ。もし俺の様に、一瞬で他の場所に飛ばせるような魔術が使えたのなら、その可能性も――。

「おい……」

 俺が考えを巡らせる横で、隊長さんが何とも形容し難い顔をする。

「んだよ」
「この村には、『デフス』はないのか?」

 隊長さんの言葉を聞き、俺は一瞬固まった。そして頭の中でその言葉を繰り返し、漸く理解する。
 デフス――そうか。その手があったんだ。

「それだ!」

 そこに考えが行かない程、俺は動揺していたらしい。俺はデフスを目指し、俺を制止する声も無視して一目散に駆けて行った。





 『デフス』――それは、魔術が使えない一般人には唯一の防衛手段でもある、簡易シェルターの事だ。基本どんなに小さな村でも、魔物が侵入して来た時の為にとそれが作られている事が多く、この村も例外ではない。この村のデフスは、俺の家のすぐ傍。大木の幹にその入り口が設置されていた。
 俺はその入り口に着くなり、乱暴にその入り口を叩いた。

「おい! 誰かいるか!?」

 デフスは特別な術式が施されており、並の力では外から開くことが出来ない。だが中からの返事がないことに焦れた俺は、デフスの扉に手を置いた。俺の後を追ってきた隊長さんが息を切らしながら、驚いた声を上げる。

「お、おいっ! まさか!」

 そのまさかだ。こんな術式、解いた方が早い!
 しかし、俺が術式に意識を集中させるよりも早く、その扉が勢いよく開かれた。え? と思う間もなく、扉の前に居た俺はそのまま扉に吹っ飛ばされて近くを転がる。そして襲ってきた顔面の痛みにのた打ち回った。

「いってぇぇぇ!」
「アルフッ、アルフか! おお、アルフ! よく帰って来てくれた!」
「ぐえっ!」

 転がる俺なんて気にしていないのか、入り口から出て来たじいさんが俺に抱き付いて来た。首が締まって思わず変な声が漏れる。つか顔面だぞ顔面! 俺を吹っ飛ばすほど勢いよく開けといて謝罪がないとか、一体どう言う仕打ちだよ。手荒い歓迎じゃんか!
 そう不満を口にするものの、俺は内心また村人の元気な姿を見れたことに安心していた。ずっとザワザワとしていた心の内が、穏やかになっていくのを感じる。良かった、ホントに。だが、そう思ったのも束の間、その安堵の心は、じいさんと一緒にデフスの中に入ってすぐに消えた。

「なんで――」

 デフスの中には、女子供が一人も居なかった。
[ prev | index | next ]

bkm