千里の道も一歩から | ナノ


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 ざっくりこの合宿の内容を説明すると、一日目施設までの移動+レクだ。レクは班で好きに決めて良い。因みに俺達の班は川釣りだ。そして二日目、二度目のレク。これも好きに決めて良い。確か俺達は陶芸とかそんなんだった気がする。後は時間あったら川で遊ぶ。んで三日目最終日、これは全校生徒で何かやるらしい。どうせ鬼ごっことかそう言う感じだろう。この施設広いからぜってぇ疲れるだろ。去年は部活で忙しかったことを考えると、何だかんだ鬼ごっことかするよりは楽な方だったのかもしれない。それで夜にキャンプファイヤーやって、次の朝に帰ると。

「……はぁ」
「どうした浅木。溜息なんかついて」
「いやー、先は長いなぁと思いまして」
「ああ、確かに全然かからないな魚」

 いや、魚じゃないんだけど。まあいいか。
 俺の隣でジッと水面を見つめる甲斐先輩は、小さく吐いたはずの俺の溜息に気付いたらしい。すげぇ地獄耳。つかただボーッと水面見てるだけじゃないってのが怖い。

「にしても、暇だな」
「そッスね。向こうは大分賑やかですけど」

 凄い歓声だ。此処まで響いて来る。確かあっちは大広場。あそこはスポーツなんかで遊ぶ班が使っている筈だ。友人もそこでフリスビーとかやるって言ってたな。此処に来て何でフリスビーとか思うけど、友人の班には生徒会長様が居る。そのせいで今年の大広場の競争率は凄かったらしい。俺は折角ならこう言う普段自分が出来ないことをしたかったから、川釣り大賛成だ。まあ暇だけど。

「フッ、尾上が居るからだろう。後は副会長もいたかな」
「成る程。その人達への歓声ですか」

 動く気配のない浮きから視線を移し、辺りを見る。静かで、俺と甲斐先輩と、離れたところに居る仏頂面で釣りをしている会長の親衛隊隊長の先輩しかいない。

「みんな釣れないからって場所移動しちゃったんですね」
「まあ確かにここで待つよりは賢明かもな」
「何で先輩は移動しないんスか?」
「ん?アイツが移動したら俺も移動するさ」

 そう言って隊長さんをチラリと見る甲斐先輩。だけど俺としては凄く気になることがある。

「なら、どうしてあの人の近くに行かないで、俺の隣で釣ってるんですか?」

 何も二人で並んで釣ることないのに。まあ別に先輩が居ても気が散る訳でもないから良いんだけどさ。

「そんなの、面白いからに決まっている」
「え?」
「俺がお前の傍に寄れば寄る程、アイツの嫉妬が膨れあがる。それを見るのが楽しくてな」

 ハハッと、呑気に笑う甲斐先輩に俺は首を傾げる。つか、甲斐先輩って意外に子供っぽい?頼れる先輩なのは間違いないけど、でも俺が思っているよりもずっと高校生らしい気がする。年相応って言うのかな。

「まあ、直ぐに分かる。今日の夜が楽しみだ」
「夜?」

 夜と言えば、俺達三人は同じ部屋で寝泊まりするんだよな。何だろう、楽しみと言うより、俺は嫌な予感しかしないけど。





「ちょっと!どう言うこと!」
「仕方がないだろ。こう言う場所だ。そう言うこともあるだろう」
「だからって、どうするのさ!」

 あー嫌だ。マジで当たったよ嫌な予感。俺はキーキー怒る隊長さんの声に頭を抱えた。

「何でよりによって此処だけ雨漏りしてんの!?」
「見事にベッドの上だな」
「見る限りは屋根平気そうなのに、雨漏りってこうなんスね」
「取り敢えず今日は仕方がない。施設の人には俺から連絡しておく」

 天気が変わりやすいとは聞いてたけど、昼間の快晴からまさかの夜雨。しかも何故かピンポイントで三つあった内のベッド一つが雨漏りでダメになった。

「こんな硬い椅子で寝たら身体痛くなるじゃないか……!」
「ベッドで寝ればいいだろ」
「はあ!?二つしかないのに、三人でどうやって寝るのさ!」

 その言葉に甲斐先輩がフッと小さく笑った。あ、また嫌な予感。

「俺と浅木で大きめのベッドで寝る。お前はあっちの部屋のベッドを使えばいい」

 だと思った。絶対そう言うと思ったよ。だって一瞬俺の方チラッと見たもん先輩。いくら他のベッドよりデカいからって、何で俺は甲斐先輩と同じ布団で寝なくてはならないんだろう。

「いいだろ、浅木」
「……まあ、いッスよ」

 寝るだけだし、明日は元に戻るだろうし、今日だけ我慢するか。
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bkm