千里の道も一歩から | ナノ


10


 そんなこんなで日は経ち、とうとう俺達の合宿が始まった。
 あれから一度も言い合いとかはなくスムーズに話し合いも進み、無事に合宿の内容が決まった俺達。友人の方も、生徒会長様が上手く纏めてくれたらしくなんとかなったらしい。
 そして今回俺は、部長に捕まることなくみんなと同じ列の中に居た。そして壇上を見つめる。初めてかもしれない、こうしてのんびり開会式に出るのは。

《では、皆さん。怪我のないように――》

 そう言って壇上で全校生徒に挨拶をする一人の男。あれが、噂の生徒会長か?噂通り綺麗だけど、とても色んな奴を食って荒らすような野獣には見えないけど。

「気になるか?」
「え?」
「因みに壇上に居るアイツは尾上ではないぞ」

 前に立つ甲斐先輩が後ろを振り返って俺に告げてくる。

「いや別に、気になってはねぇッス」
「そうか?」

 思わずそう言い返すと、先輩はフッと面白そうに笑った。何だよ、何で笑うんだよ。別に嘘は言ってない。ただこう言う機会がなくて、尚且つ友人と同じ班の学園のトップを一度くらい見といてもいいかもって思っただけだ。

「フハッ!」
「……」
「あーすまんすまん。そんな不満そうな顔をするな。ただな、アイツのあんな反応が見られると思わなくて……つい思い出し笑いしてしまった」
「そう言うの、一人でやって下さいよ」
「フッ、つれないな。同部屋なのに」

 そう言って前を向いた甲斐先輩の背中を思わず睨む。なんか含みのある言い方だったな。まだ何かあるのか?そう疑わずにはいられないのは、この合宿が始まる前。部屋割りの話になった時の事だ。





「部屋割りだが……俺と浅木、そして倉田以外は好きに決めてくれ」

 え?と呟いたのは俺だけではなく、倉田と言われた会長様の親衛隊隊長が同じタイミングで呟いた。え、なに、俺と浅木と倉田以外って。嫌な予感しかしないんだけど。

「ちょ、ちょっとどう言う事!?」
「こう言う事だ。俺とお前、そして浅木が同部屋だ」
「え、マジッすか」

 どうしてよりによって俺?
 疑問しか湧かないんだけど。

「お前、本気で僕を監視するつもり!?」
「さあ、どうかな」

 机を挟んで睨み合う二人の間で、俺はただただ遠い目をした。何このギスギスした雰囲気。俺単体でこの中に放り込まれるの?

「大体どうしてコイツを入れる訳!僕を監視するなら二人部屋の方がいいでしょ!?」
「なんだ、二人きりになりたいのか?」
「ふざけるな!」

 やべ、すげぇ帰りたい。皆もそう思ってるよ。だって二人の剣幕に一年なんかビビっちゃってるし。

「俺はお前の為に浅木を同部屋に選んだつもりだけどな」
「はあ!?」
「それと後一つは、俺が浅木と同じ部屋で寝るとあの冷血漢に告げたら……凄く楽しいと思わないか?」
「……!」

 隊長さんが何かに気付いたのか、先輩に突っかかるのを止めて俺へ顔を向けて来た。それも凄く驚いた顔だ。え?何。俺上手いこと状況についていけてない気がする。

「とにかくもう時間がない。みんな急いで決めてくれ」

 パンパンッと大きく手を叩いた先輩に急かされ、今まで手を止めて俺達を見ていた班員が部屋割りについて話し始めた。

「ねえ、さっきの話だけど……」
「さぁて、これから面白くなりそうだな。なあ浅木」
「え、あーそうッスね」

 隊長さんの言葉を遮って、本当に面白そうに笑っている甲斐先輩に、俺は返答に困りながらも相槌を打った。いや、一つ言いましょう。俺は全然面白くない。なんでこの部屋割りなんだよ。どうして先輩達に囲まれなきゃならないんだ。気を遣うだろ。

「と言うより、当日アイツはどうするつもりなんだろうな。作業などが重なることもあるだろうに……」
「え?」
「早いとこ自分からバラした方がいいと思うんだがな」

 何が甲斐先輩をそんなに面白がらせるのか、俺にはサッパリだ。
 けど、その言葉には全部意味がある様に俺には思えた。
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bkm