千里の道も一歩から | ナノ


8

「何か知らないけど会長がいきなりやる気出してさ。もうそれはそれは凄い勢いで物事が決まるのなんの」

 三度目の話し合いを終えたところで、此処最近憂鬱顔だった友人に笑顔が戻った。何でも同じ班の会長様が友人の意見と転入生の意見をいい感じにまとめ、そして反対していたヤツらに威圧的に突き付けたとか何とか。

「けど、威圧的ってどうなの……無理矢理過ぎない?」
「いやでも、ぶっちゃけスッキリした。話進まないのもあったけど、会長もあの時ははっきりと注意はしなかったし。だから今回、『これで文句はないだろう』って皆に言った時の会長は正直格好良かったよ」

 へえ……と声を漏らすしかなかった。こいつが此処まで言うって事は、それ程までに男から見ても魅力的なんだろうその会長とやらは。
 見たことないけど、何か初めて気になった。少しだけね。

「なあ、会長ってどんな人」
「どんなって、見たことないって言うのが凄いよ」
「しょうがねぇだろ。俺が見てない時に出るんだから」
「まあいいけど。んー、取り敢えず顔は整ってる。いっそ恐ろしいぐらい」

 恐ろしい位の容姿。そう聞いて浮かんだのはチサ先輩の姿だった。初めて俺があの人を見た時も、ゾッとする感覚を覚えたものだ。でもそのチサ先輩と同等の容姿なんて、そういないんじゃないか?

「他は?」
「あー、あと頭いい。それと性格も俺が見てる限りだといい方だと思う」
「はあ?遊びまくってるのに?」
「……まあ、そう言われたら何も言えないけど、そう言うの抜きにしたら頼りになる先輩って感じだな」

 ふーん。と俺は頬杖をつきながら相槌をうった。と言うかそれしか言えなかった。やっぱり俺の中で此処の生徒会長様は、大分スキャンダルを抱えている印象しか受けない。どんなに見目が良かろうと、俺はたぶん苦手な部類の人だと思ってる。
 まあ、いつか見れたらそん時でいいや位には興味が持てたよ生徒会の事。きっと友人が関わらなかったら一生興味持たなかった気がする。

「そう言えば俺、やたら会長様に話し掛けられるんだよな」
「え?」
「しかも妖艶な笑みって言うの?流石の俺でもあんな風に微笑まれたらドキッとするわ」
「マジかよ。もしかして気があるんじゃね?」
「あはは、ねぇな。だってあの人転入生にぞっこんだろ」

 ぞっこんってもう死語じゃね?と心の中で思いながら、俺は確かにと友人の言葉に頷いた。あんな風に写真を撮られる位だから、会長様が転入生に気があるとは俺も思うんだけどね。でも、転入生を思い浮かべて一緒に出てくるのはチサ先輩の事だった。チサ先輩、前は否定してたけど、やっぱり転入生の事好きなんじゃないかな。だって、よく考えたらあの電話越しの声、もしかしたら転入生の声じゃないか?まあ、何の確証もないから俺がどうこう言える問題ではないけど、でも何となくそうじゃないかと予想はしてる。

「先輩、頑張れ」
「え?」
「何でもない。こっちの話」

 俺はその会長様がどんな人かは分からない。けど、その会長様にチサ先輩が劣るようには思えない。つか俺は、チサ先輩を応援する。先輩の恋愛ごとに首を突っ込むと先輩を怒らしそうだから、心の中で願っとくだけにしとくけど。
 先輩の想いが報われますようにってさ。良い人なんだから尚更だろ。


「にしても、ホントなんでだろ」
「さあ……?」


 自分に構ってくる理由が分からず首を傾げる友人に、俺も一緒になって首を傾げた。
 何か特別な理由でもあるのかな?
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bkm