千里の道も一歩から | ナノ


2


 無事に一回目の話し合いも終わり、俺は教室に戻った。すると何故か友人が物凄く疲れた顔をしていた。さっき別れた時はこんなじゃなかったのに。

「おいおい、何辛気臭い顔してんだよ」
「おかえり。いや、その……」
「なんだよ」
「合宿の班が……」

 はあ、とまた溜息をつく友人。
 どうやら合宿の班が、こいつの疲れの原因らしい。

「班員は誰だったんだ?」
「それが、例の転入生と」
「え?」
「会長様だったんだよ」

 マジか。それは俺以上に凄まじい班員だな。でもその二人が一緒と言うだけでこんなに疲れるものなのか?

「それが、転入生と会長が同じ班ってことで、何か皆ギスギスしててな。話し合いが全然進まなかったんだよ」
「え、マジ?」
「進行は会長がやってくれてたんだけど、意見するのが俺や転入生しかいなくてさ。なのに転入生の意見は反対が多くて却下されて、結局俺の意見だけ残って……ああ、もうとにかく全然進まなかった。まだ一日目の予定も終わってねぇよクソ!」

 そう言ってガーッと頭を掻き毟る友人に、俺は同情の目を向けるしかなかった。

「それは大変だったな……。俺も甲斐先輩とどっかの親衛隊隊長が突然喧嘩腰に話し出したからさ、思わず注意して何とか話は進んだけど、ホント勘弁してほしいよな」
「甲斐って、あの風紀委員長か!それと親衛隊隊長って、どこのだ?」
「え?どこだっけ。確か、オノエって言ってた気がする」
「オノエ……って、会長じゃん」
「会長!?マジか」
「会長の親衛隊隊長と風紀委員長って、もうこの班分け転入生を護る為の布陣じゃねぇか。マジ腹立つわ。それに俺達を巻き込むなっての」

 そうだったのか。だから監視だどうの言ってたのね。でも友人の言う事ももっともだ。だったら自分達で固まって班を作ればいいのに。無理に皆に混ざろうとするから、こう言う事態になるんだ。俺の所はともかく、こいつの所は一番厄介なんじゃないか?

「もう会長に言えよ。話し合いが進まないから何とかしてくれって。原因はその人にもあるんだろ?」
「まあ転入生の意見が却下されんのは、会長がいいなソレって賛同するからだと思うんだよな」
「周りのヤツらも子供だな。後々大変なのは自分たちなのに」
「俺、居残りとかしてくねー……」
「俺だってお前に居残られるのは困る」
「しょ、翔太郎?お前、そんなに俺の事をっ!」
「お前が居ないと誰が記事の実験に付き合ってくれんだよ。お前以外快く引き受けてくれるヤツいねぇのに」
「だと思ったよ。ホント、ブレないなお前」

 でも、俺だって腹立つよ。それは関係ない人達にとってはあんまりだ。
 元気ない友人見るのも気分良くないし、何とかならないかな。





「翔太郎?どうしたの?」
「あー先輩。こんちわ」

 俺が一人で天井をボケっと見上げていると、そこにチサ先輩がやって来た。その目はどこか心配そうに俺を見ている。そんな浮かない顔してんのかな俺。

「んー、まあちょっと合宿の事でさ。色々あって」
「え?」
「……正直憂鬱。行きたくねぇわ」

 ポツリと呟いた言葉に、先輩が「どうして?」とやけに真剣な顔で言ってきた。あ、そっか。そう言えば先輩は合宿を楽しんでもらいたいって言ってた。なのにその先輩に行きたくないとか、そりゃ失礼な話だよな。

「すんません。何でもないッス。忘れて下さい」
「誰かに何か言われた?それとも危険なやつが一緒の班とか……」
「え、いやいや。そんな事はないですよ。それに、危険なやつが居たとしても、同じ班に甲斐先輩が居るから安全ではあると思う」
「――は?甲斐が、一緒……?」

 何やら驚いた様子の先輩は、そう漏らすと、慌てて席を立った。その拍子にガタンッと音を立て椅子がひっくり返るが、それに気付いていないのか、先輩は一目散に図書室を飛び出してしまった。

「え、ちょ、先輩ッ、カバン!」

 慌てて呼び止めるも、俺の声が聞こえていないのか、先輩は戻って来ない。

「おいおい、どうすんだよこれ……」

 置き去りにされた先輩のカバンを見つめ、俺は途方に暮れた。
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